くも膜下出血を説明できますか
くも膜下出血という疾患、看護師であれば一度は耳にしたことはあるでしょう。
ただ、脳梗塞・脳出血に比べると関わる頻度は減ります。脳神経疾患関連病棟ナースは、その名前を聞くだけで少し緊張するかもしれません。どこか特別な疾患という認識を持たれる方も多いと思います。
その一方、関わる頻度が少ないゆえに経験値を得る機会が多くない疾患でもあります。それでも患者・家族にとっては生命に関わる一大事ですから、臨床の看護師に多くの質問を投げかけたくなります。
もし、「くも膜下出血について説明してほしい」と患者・家族に言われたときには、自信をもって答えたいものですね。
くも膜下出血とは
くも膜下出血の原因は、脳動脈瘤破裂が8割・脳動静脈奇形(AVM)が1割・その他(脳出血・脳腫瘍・外傷性など)1割です。
静脈性くも膜下出血など原因不明のものもあります。くも膜下出血とは疾患名ですが、病態(くも膜下腔へ出血した状態)をも表しています。ここでは、最も多い脳動脈瘤破裂について主にお伝えします。
くも膜下出血を動画で見てみます。脳動脈瘤破裂のイメージが伝わると思います。何度見てもぞっとするムービーです。
バイエルファーマナビ「脳卒中とは くも膜下出血」より転載
左内頚動脈先端部にある脳動脈瘤が破裂しました。くも膜下出血です。
発生機序
脳動脈壁は内側から、内膜・中膜・外膜で形成されます。解剖学的に最も強固なのは中膜ですが、その中膜が欠損している場合があります。中膜が欠損していると、必然的に血管に脆弱な部分ができます。この血管壁中膜の欠損に、加齢変化・血流負荷が加わり脳動脈瘤ができます。
なお、血管壁中膜欠損は遺伝的要因(先天的要因)が強いと言われます。このため、くも膜下出血は遺伝的要因が影響する疾患です。3親等内にくも膜下出血があれば、約3倍の発症率になります。また女性に多い病気です。未破裂脳動脈瘤は、原則脳ドックをうけないと見つけられません。
未破裂脳動脈瘤は一部の例外を除いて無症状ですが、まれに動眼神経麻痺で発見されます。この場合の動眼神経麻痺とは、眼瞼下垂と対光反射減弱・消失です。内頚動脈-後交通動脈の脳動脈瘤が急激に大きくなった場合、このような症状が現れることがあります。
くも膜下出血の画像
くも膜下出血の画像を見てみましょう。
くも膜下出血の代表的な頭部CT画像です。単純CTでは、骨が白・髄液が黒・脳実質が灰色に移ります。大脳基底部のペンタゴン(五角形)様高吸収域(出血)が特徴です。ヒトデのような白い部分がくも膜下出血です。
これは典型的な画像ですが、例外もあります。わかりにくいくも膜下出血が存在します。突然の強い頭痛を訴え来院した患者さんのCTを撮影しても、一見何もないように見える。この場合では、MRI(FLAIR)・MRAを撮影してくも膜下出血と脳動脈瘤を検索するほうが安全です。
もちろんどんな病気も見落としてはいけませんが、くも膜下出血は必ず見つけなければなりません。突然の頭痛が脳動脈瘤破裂かもしれないからです。そして、再破裂すれば死に至るからです。病院以外で再破裂すれば、まず助かりません。
くも膜下出血患者の転機
くも膜下出血患者の転帰です。くも膜下出血発症患者のうち25%は病院に着くまでに(治療を受けられずに)死亡します。また25%が病院で治療を受けても死亡します。つまり、50%が亡くなる疾患なのです。
生存した人のうち25%が何らかの後遺症が残り、そして残りの25%が社会復帰ができるといわれています。復職するなど、発症前と全く同じ状態に戻れた人はもっと少ないと考えられます。
以上はすこし荒削りな説明ですが、くも膜下出血の死亡率が高く、重い後遺症が残りやすいことが伝われば幸いです。
くも膜下出血 検査
くも膜下出血を見つけ、治療に繋げるためにはどんな検査が必要なのでしょうか。
まずはCT撮影です。典型的なくも膜下出血は、単純CTで発見されます。さらに、脳動脈瘤の位置を発見するためには3D-CTA・MRA(MRI)がしばしば活用されます。
加えて、見つけにくいくも膜下出血はMRI(FLAIR)で発見されることがあります。さらに、脳血管撮影(DSA)を実施し、動脈瘤の位置・大きさ・形状を詳しく把握します。
尚、過去には腰椎穿刺(髄液検査)がしばしば行われていましたが、近年はあまり実施されません。疼痛による再破裂の危険性があることや、感染のリスクがあることが理由です。また、髄液排出による脳内環境変化から再破裂が懸念されること、下向性脳ヘルニアの危険性が完全には否定できないことが挙げられます。
重症度分類
クモ膜下出血の重症度分類を紹介します。主に3種類です。Hunt & Hess分類(1968)、Hunt & Kosnik分類(1974)、WFNSの分類(1983)です。
軽症例(Hunt & Hess分類 GradeⅠ~Ⅲ)は、発症72時間以内に手術による再出血予防処置を行うことが望ましいとされます。
Hunt & Hess分類(1968)、Hunt & Kosnik分類(1974)です。とても似ています。アップデート版と思っていただいて結構です。グレードがⅠ~Ⅲなら早く手術されると覚えてください。
上がWFNS分類です。意識障害と局所神経学的症状(失語あるいは片麻痺)によりグレードを評価します。
重症度の分類とは少し趣旨が異なりますが、下のFisherのCT分類は、くも膜下出血後の合併症である脳血管攣縮の発生を予測するための分類としてよく用いられます。
くも膜下出血の合併症
こうしてくも膜下出血をみてきましたが、やはり怖い疾患です。脳卒中の中でも特別感があります。それは、発症から退院までに多くの壁(合併症)があるからだと思います。
くも膜下出血の合併症、少し考えただけでもこんなにあります。くも膜下出血はもちろん脳疾患ですが、全身疾患とも言えます。
様々な合併症を乗り越えて、ようやく退院が迎えられるのです。必然的に入院期間は長くなります。量的にも質的にも、看護師の関わる要素がとても多い疾患と言えます。
まとめ
くも膜下出血とは
- 脳動脈瘤破裂が主な原因
- 脳卒中の中でも、特に死亡しやすく後遺症が残りやすい
- くも膜下出血を発症して退院するまでには、多くの壁(合併症)がある
- 脳疾患であるとともに、全身疾患でもある
脳卒中を知れば、治療が予想できます。治療が変われば看護も変わります。もし、くも膜下出血さんを担当することがあれば「今、自分にできることは何か?」意識してみてください。
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