本記事は対人関係に悩みを抱える人が現状を見つめなおし、対人関係の課題に取り組むきっかけをつかむことを目的にお送りしています。
現場の看護師から受ける相談や、私が経験した事例をもとに一緒に考えていきます。
今回のテーマは、「助けてあげたのに…」と見返りを求める人との付き合い方。心が疲れないための3つの視点です。
助けてもらい感謝していた
困ったとき、誰かに助けてもらった。その親切に心から感謝していた。
しかし、いつの間にか「あの時やってあげたんだから、今度は助けてくれるよね?」と理不尽な見返りを強要され、息苦しさを感じたことはありませんか?
その相手が上司や同僚、あるいはお世話になった人だったら、なおさら「ノー」とは言いづらいものです。
この記事では、そうした「信用」の関係を無心し続ける人の正体を深掘りします。そして、あなたの心が疲れ果てないためのヒントを3つお伝えします。
「信用」を強要する人の心理:彼らは何をもとめているのか?
このような人たちは、人との関わりを「〇〇してあげたから、××をくれ」という「貸し・借り」の関係で見ています。彼らは、過去実施した親切をあなたへの「貸し」とし、未来の利益はその「返済」なのです。つまり、あなたをコントロールするための道具として、親切を利用していると言えるでしょう。
もっと生々しく、金銭のやりとりも道具にする人がいます。「前にごちそうしてあげたのだから」、あるいは「あの時払ってあげたのだから」と、見返りを求めるのです。
この関係を別の視点から見ると、彼らの本当の意図が見えてきます。
相手があなたに親切にする目的は、「あなたに感謝すること」や「良い関係を築くこと」ではありません。あなたを助けることで、自分自身の欲求を満たすことなのです。
さらに、彼らは人間関係を「上下関係」で捉えています。
「信用」を強要する人は、あなたを「下」に見ているのです。見下しているのです。
だからこそ彼らが与えてきた「親切」は、あなたにとって「借り」となり、いつでも返済を要求できる「借金」と見なされます。彼らはあなたが自分より「下」の立場にいるから、あなたの善意を無心できると考えています。さらには、善意に利子をつけて返却させようとします。
このため、あなたが彼らの目的達成の「道具」にすぎないと気づくことが、まず心を冷静に保つ第一歩です。彼らの言動に振り回されてはいけません。
「信用」と「信頼」、決定的な違いを理解する
この「貸し・借り」の関係から卒業するためには、「信用」と「信頼」という二つの言葉が持つ決定的な違いを理解することが重要です。
「信用」とは、過去の実績や根拠に基づいた「見返りの約束」です。
たとえば、銀行が融資を行う際に、個人の返済履歴や収入を調べるのは、まさに「信用」を判断している行為です。そこには過去のデータという「担保」が不可欠であり、「もし返済できなければ、担保を失う」という条件が伴います。
一方、「信頼」とは何の根拠も担保もなく、相手の未来の行動に対する「無条件の期待」です。
たとえば、家族や親友に対して「この人なら大丈夫」と心から思えるのは、「信頼」の関係が築かれているからです。そこには、「裏切られたら、騙されたらどうしよう」という条件は存在しません。たとえ裏切られたとしてもそこから学び、再び関係を築こうとします。
見返りを求める関係は、前述の「信用」の領域に留まっています。しかし、本当に健全で心地よい人間関係は裏切られる可能性を恐れず、相手に寄り添う「信頼」から生まれます。本当にあなたを想う人であれば、決して見返りを求めません。
信頼とは「相手を信頼する自分を信じる」ことでもあります。「自分を信じる」のです。
「信用」の輪から抜け出すための3つの視点
信用の関係から抜け出すためには相手を変えようとするのではなく、自分自身の心の持ち方と行動を変えることが重要です。
1. 「信用」と「信頼」の境界線を明確にする
不誠実な相手があなたに求めているのは、「過去の貢献」という名の「信用」であり、あなたの人間性やあなたとの未来の関係に基づいた「信頼」ではないことを自覚しましょう。
「これは恩を売られているだけだ」と冷静に捉えることで、過度な期待や罪悪感を捨てることができます。相手の「助けてあげたのだから…」、「あなたのために」という言葉は、彼らがあなたを「信用」の枠に閉じ込めようとするサインです。
2. 相手の要求を「自分の問題」から「相手の問題」に切り離す
相手が見返りを求める言動は、あなたの「親切が足りない」から起きるものではありません。それは相手自身の承認欲求の問題です。
「なぜ私にこれを求めるんだろう?」と相手の目的を客観的に観察することで、その要求に振り回されなくなります。その問題をあなたが背負う必要はありません。課題の分離です。
3. 「ノー」を伝える勇気を持つ
相手は「断れない人」というあなたの特性を利用しています。
「それは私にはできません」、「それは嬉しくないです」と、穏やかでも毅然とした態度で断る練習をしましょう。相手を傷つけないよう遠回しな言い方をせず、シンプルに「ノー」と伝えることが健全な関係を築く上で不可欠です。
「ノー」と言われた相手は狼狽し、あなたを攻撃するかもしれません。でも、それでいいのです。相手は「断れない人」を探しているだけです。あなたでなくて良いのです。
あなたは「道具」ではない、あなたの意志はもっと尊い
あなたの優しさは、不誠実な相手に見返りを与えるためのものではありません。あなたの意志はもっと尊いものです。
そして、もしどうしても「信頼」の関係を築けない相手と付き合うのが苦痛なら、不健全な依存関係から抜け出すために避けられないのなら、勇気を持って関係を断ち切って構いません。
たとえ、それが親子であろうとも。
これからは、相手に利用される「貸し・借り」の関係から卒業し、あなた自身が心から大切にできる人間関係を築いていきませんか?
あなたはどう考えますか。
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