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こんなときどうする?
【すぐ泣く後輩】

本記事は対人関係に悩みを抱える人が現状を見つめなおし、対人関係の課題に取り組むきっかけをつかむことを目的にお送りしています。
現場の看護師から受ける相談や、私が経験した事例をもとに一緒に考えていきます。
今回のテーマは、「すぐ泣く後輩」です。

教育はすべての人が実践している

看護師として就職すると、多くの施設では定められた教育研修を受けます。日本看護協会が看護師のクリニカルラダー提案を提案し、それに準じた教育が行われていることが多いようです。

このため、就職後数年間は系統的な教育を受けることになります。こうして職務と研修を受けているうち、あっという間に1年、2年、3年と経過します。自分は新人だと思っていたら、いつのまにか後輩が増えていたという経験があるのではないでしょうか。

経験年数が増えると、後輩教育の役割を任されることも多いです。教育に携わることは簡単ではないですが、自身が教えることで初めてわかることも多いはずです。教育を通じて後輩と共に自身も成長する経験は、何にも代えがたい喜びとも言えます。

後輩に関わっていると確かにやりがいを感じることもありますが、決して楽なことばかりではありません。先輩が思うような成長が感じられないこともあれば、ミスを起こしてしまうことも当然あります。

先輩としては順調に成長してほしいですし、独り立ちに少しでも早く到達してほしい気持ちになります。ひょっとしたら教育に取り組む自分を、周りがどう見ているかも気になるかもしれません。後輩の成長具合で、自身が上司に評価されていると感じる人もあるでしょう。

大変なのは後輩だけではない

新人さん、後輩が仕事を覚えることは大変ですが、同じように先輩も大変です。時には後輩のミスを指摘しなければならない場面もあります。

悩んだ末、意を決して後輩を指摘すると、「指導ありがとうございます!次は頑張ります」という元気な返事が返ってくる、とは限りません。

場合によっては反論されたり、言い訳されたりすることもあり得ます。もしかしたら、思いもよらない返事があるかもしれません。関係によっては無視されることも想定されます。そして、時には泣きだしてしまう人もあるでしょう。

さらには「すぐ泣く」後輩もいます。

なぜ泣くのか

先輩が怒ったり叱ったりして、後輩が泣くのは想像しやすいです。ところが怒ったわけでなく、ただ普通に質問しただけで泣き出す人はいます。

ミスを指摘したら泣いたというのも分かり易いです。それどころか、後輩のミスをフォローするために状況について知りたいから声をかけただけでも泣く場合もあります。

こうなると先輩は大変困ります。「自分の声掛けが悪いから泣くのだろうか」とか、「自分が悪いのだろうか」とどうしても考えてしまいます。

多くの先輩は後輩を意図的に泣かしたいとは思いませんから、後輩の機嫌を取るような接し方になります。怒ったり叱ったりは厳に慎み、ミスを指摘するときも穏やかに、質問をするときも答えやすく傷つけないように細心の配慮をします。

さらに、先輩によっては腫れ物に触るような接し方をするようになります。それなら後輩は泣かないと思うからです。

泣くには目的がある

こう考えると、なぜ後輩がすぐ泣くのか見えてきます。「すぐ泣く後輩」は、不適切な方法で自身の居場所を作り出しているのです。

新人であれば、当然できることは限られます。おそらく看護学生の時、頑張って勉学に励んできたのでしょう。それ以前もきっと頑張って生きてきたのです。ところが就職してみると、できないこと・わからないことばかりです。積み上げてきた経験が、崩れてしまうような思いに至るのです。

そして自分に価値が無いように感じるのです。経験が少ないのですから知識・技術が至らないのは当然ですが、それを受け入れることができないのです。

すぐ泣けば、先輩の指摘を避けられます。これ以上自信を失わなくて済みます。もしかしたら他な人からの攻撃も、先輩が守ってくれるかもしれません。

そうです。すぐ泣く後輩は「これ以上私を傷つけないで」と言いたいのです。成熟した成人であれば、言語を使い論理的に他者に伝えなければなりません。それをしないために泣いているのです。いつまでも新人、言い換えれば未熟な自分で居たいのです。自立を拒んでいるのです。

ではこのような後輩に対し、私たちはどう接すればよいのでしょうか。

これからどうするか

先に書いたように、すぐ泣く後輩は「これ以上私を傷つけないで」と言いたいのですから、「自分は傷つけられることはない」と感じてもらえれば良いのです。

思い返してもらいたいのです。あなたは新人の時、果たしてすぐ泣いていたでしょうか。そうでないのなら、職場で「自分は傷つけられる」とは感じていなかったでしょう。仮に、同じように泣いていたのなら周囲の人に恐怖を感じていたでしょう。

厳しい言い方をすれば、後輩が泣かなければならない職場の対人関係は良くないのです。一度、自身の職場の対人関係は対等なのか、そして自分自身の接し方は威圧的でないかを考える価値はありそうです。改善できる余地に気づいたのなら、今すぐに行動しましょう。端的にいえば、上下関係のない職場づくりに取り組んでほしいです。

上下関係でなく、対等な対人関係がすでに築けている職場であるのなら、別のアプローチもあります。自立した人(看護師)に成長してほしい、と伝えるのです。

「泣かなくても、あなたを傷つけることはありません」、「あなたが自立して仕事ができるよう支援したいです。そのためには、時には指摘をさせてもらいたいです」と言っていいと思います。

そして、「あなたはどうしたいですか」と意見を聞いてみましょう。適切な対人関係が築けているなら、きっと話してくださるでしょう。「すぐ泣く後輩」はこれまでの経験から、「泣けば特になる」と認識しているのです。それなら、泣く以外の対応方法があることを教えていきたいのです。

今の自分を認める

「すぐ泣く後輩」への接し方を考えてきました。すでに今、あなたは後輩がよりよく成長できるため力を尽くしているはずです。このような環境にあれば、後輩も真摯に仕事に取り組まれます。

当初すぐ涙をこぼしていたとしても、少しずつ自分にできることは増えていきます。患者・家族に対してもできることが増え、先輩から頼られる場面が必ずあります。次第に「私は役に立てている。私には価値がある」と感じることができます。

そうあれば、泣くことは必要なくなります。他者に伝えたいことを、言語を使って論理的に表現できるようになります。こうして「すぐ泣く後輩」は居なくなります。

そんな職場で働きたいと思うのは、私だけではないと思います。

おわりに

「すぐ泣く後輩」をテーマに、先輩と後輩の関係を考えてきました。今回は先輩からの相談でしたが、これはすべての対人関係に当てはまります。

あなたはどう考えますか。

この記事に登場する人物・事例・団体などはすべて架空のものです。筆者の所属施設・関連施設とは一切の関係はありません。プライバシーに配慮して、実際の事例をもとに内容を構成したものを掲載しています。

ABOUT ME
小林 雄一
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師「看護師失格?」著者 看護師の育成に取り組むと同時に、看護師の対人関係能力向上に貢献するため、面談・セミナー・執筆活動を行っています。