対人関係がちょっとラクになる
ひとの認知機能を考える
対人関係

あの人、信じられる?その問いの奥にある「信用」と「信頼」の哲学

本記事は対人関係に悩みを抱える人が現状を見つめなおし、対人関係の課題に取り組むきっかけをつかむことを目的にお送りしています。

現場の看護師から受ける相談や、私が経験した事例をもとに一緒に考えていきます。
今回のテーマは、「あの人、信じられる?」です。

前回の記事を見てくださった方から、「信用・信頼の違いをもう少し深く知りたい」とコメントを頂きました。そこで今回も、信用・信頼について考えていきます。

信用と信頼

あなたは、誰かを「信じる」とき、その対象を「信用」していますか?それとも「信頼」していますか?

この問いに「どう違うの?」と感じた方もいらっしゃるかもしれませんね。普段、何気なく使っている「信じる」という言葉。しかしその奥には「信用」と「信頼」という、まるで異なる二つの側面が隠されています。

この違いを理解することこそが、私たちが日々紡ぐ人間関係、特に患者さんや同僚との関わりの質を根本から変える鍵となります。

「信用」とは何か?:実績が築く「条件付き」の関係

まず、「信用」について考えてみましょう。

信用とは、相手が「これまでの実績やデータに基づいて、特定の条件を満たしているか」を評価することで生まれる関係です。それは、いわば「もし〇〇なら信用できる」という、「条件」と「評価」の関係性です。

例えば、銀行がお金を貸すとき、あなたの返済能力や過去の取引履歴を見ますよね?これは「経済的な信用」です。仕事で新しいプロジェクトを任せる際、「この人は過去にこういう成果を出しているから大丈夫だろう」と判断するのも「信用」です。看護師のあなたが、同僚のスキルや経験を評価し、「あの人ならこの処置を任せられる」と判断するのも、この信用にあたります。

信用は具体的な行動や結果によって築き上げられますが、裏切られたり条件が崩れたりすれば、あっという間に失われてしまいます。

「信頼」とは何か?:未来を委ねる「無条件」の繋がり

では、「信頼」はどうでしょうか。

信頼とは、相手の人間性や意図そのものに対して抱く無条件の肯定的な期待です。そこには具体的な条件や過去の実績は必ずしも必要ありません。それは、「たとえ〇〇であっても信頼できる」という、「無条件」と「受容」の関係性です。

あなたの親友が、予期せぬ困難に見舞われたり、あなたにとって理解しがたい失敗をしてしまったりしたとします。それでもあなたは「精一杯の努力の結果なのだ」、そして「それでも彼(彼女)なら、きっとその状況を乗り越えられるだろう」と、その人自身の力を信じ続けられますか?もしそうなら、それは「信頼」です。

言葉にはならないけれど、あなたが「この人なら、きっと自分自身を大切に生き抜くことができる」と、相手に対して抱く深い心の繋がり、それが信頼です。

医療現場で、患者さんが「この看護師さんになら、自分の弱い部分を見せても大丈夫だ」と、深い部分であなたに安心感を抱くとき、それはまさに信頼が育っている証拠です。たとえ相手が期待通りの行動を取れなくても、その人自身を疑わない。これが信頼の本質です。

面談室から紐解く:「信用」の先に「信頼」はあるのか?

私たちの関係性は、この「信用」と「信頼」が複雑に絡み合っています。

アドラー心理学では「課題の分離」が大切だと説きます。他者の行動や評価に一喜一憂せず、自分の課題に集中すること。これは、まずは相手の行動に対する「信用」の土台を築く上でも重要です。

しかし、真に他者を仲間だと思える気持ちを育むためには、この課題の分離を超え、相手への「無条件の信頼」が不可欠になります。「もし裏切られたらどうする?」という不安を乗り越え、相手の可能性を信じる勇気が求められるのです。

私が拙著「看護師失格?」でもお伝えしたかった、RUSK研究所神経心理ピラミッドの視点も、この「信頼」を深めるヒントになります。特に認知症の患者さんとの関わりにおいて、言葉や行動が以前と変わってしまうことがあります。しかし、そこで「信用できない」「問題患者だ」とシャットアウトするのではなく、言葉が通じにくくてもその人の「存在」や「尊厳」そのものに対して「無条件の信頼」を寄せることが、どれほど大切か。

表面的な「問題行動」の奥にある患者さんの内面を理解しようと努める姿勢こそが、彼らの安心感を生み出し、真の信頼関係へ繋がるのです。

信用は積み上げるものですが、信頼は関係の土台に『置く』もの。そして、時に勇気が要る行為です。

真の人間関係を育むために

「信用」は、私たちが社会で機能するために必要な、客観的な評価の枠組みです。しかし、「信頼」は、その人の本質を認め、受け入れ、共に未来を歩むための、より深く温かい心の結びつきです。

面談室で皆さんとお話しするように、私たちは日々、多くの人々と関わっています。あなたの目の前にいる人、そしてあなた自身を、「条件」で測るばかりでなく、「無条件」の信頼を寄せてみませんか?その一歩が、より豊かな人間関係への扉を開き、きっとあなたの看護師としての経験、そして人生そのものを、深く彩ってくれるでしょう。

あなたはどう考えますか。

この記事に登場する人物・事例・団体などはすべて架空のものです。筆者の所属施設・関連施設とは一切の関係はありません。プライバシーに配慮して、実際の事例をもとに内容を構成したものを掲載しています。

ABOUT ME
小林 雄一
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師「看護師失格?」著者 看護師の育成に取り組むと同時に、看護師の対人関係能力向上に貢献するため、面談・セミナー・執筆活動を行っています。