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脳卒中の基礎知識

脳神経ナース必見!【今さら聞けない?脳出血】

脳出血を説明できますか

看護師として働いていると、脳出血の患者さんに関わることがあります。脳神経疾患関連部署であれば、大変身近な疾患です。我が国では、かつて脳卒中の中で最も多かったのは脳出血でした。高齢者の中には脳溢血と呼ぶ方もあり、「脳卒中=脳出血」と認識している方も多いようです。このように脳出血は、一般の方にもよく知られた疾患です。もし「脳出血について説明してほしい」と患者・家族に言われたときには、自信をもって答えたいものですね。

https://dialogue-room.site/type-of-stroke

脳出血とは

脳出血とは、脳血管が破綻して脳内に出血した状態です。ラクナ梗塞の原因血管でもある、穿通枝の破綻によって起こります。高血圧・糖尿病が発症のリスクを高めます。


脳出血が起これば、麻痺・感覚障害・失語などの症状を来します。多くの方が想像する、いわゆる脳卒中らしい症状です。原則、突発発症で症状完成することが特徴です。大量に出血した場合は、頭蓋内圧亢進・脳ヘルニアに伸展し、しばしば生命に危険を及ぼします。

脳出血した部位や大きさによって症状は多彩で重症度も大きく異なります。出血量が30ml~40mlあると脳圧亢進が起こると考えるのが自然です。脳出血には、再出血・出血増大のリスクもあります。発症後24時間は再出血しやすいのですが、特に6時間は再出血の危険性が高いと言われています。担当する看護師も緊張を強いられる時間ですね。

脳出血を動画で見てみます。脳出血のイメージが伝わると思います。

バイエルファーマナビ「脳卒中とは 脳出血」より転載

右中大脳動脈からは穿通枝が無数に出ていますが、そのうち一本の先端が破綻しました。これが高血圧性脳出血です。

発生機序

脳出血の発症メカニズムは、ラクナ梗塞とよく似ています。高血圧により穿通枝が徐々に傷んでいき、動脈硬化が進行します。血管壁は脆くなり、微小動脈瘤を形成します。あるとき血圧の負荷に耐え切れず、穿通枝が破綻して出血します。
脳の太い動脈であれば、相対的に血圧負荷の耐性があります。一方、穿通枝は大変細い血管であり血圧への負荷耐性が低いのです。水道に例えれば太いホースと細いホース、どちらが水圧に強いかを考えると想像しやすいかもしれません。脳出血になるか・ラクナ梗塞になるかは、血管が破れるか・詰まるかの違いでしかありません。脳出血とラクナ梗塞は表裏一体であり、どちらが起こってもおかしくないのです。ラクナ梗塞で抗血小板療法している人が脳出血を起こすとどうなるか、想定しておくことに無駄はなさそうです。

ここで、高血圧性脳出血以外の脳出血を明確に区別しておきましょう。脳動静脈奇形や静脈洞血栓症、アミロイドアンギオパチーなどです。これらは動脈硬化とは直接関係がないので、混同してはいけません。

脳出血の画像

脳出血の画像を見てみましょう。脳出血の部位別の代表的な頭部CT画像です。単純CTでは、骨が白・髄液が黒・脳実質が灰色に写ります。脳実質内にある明るい白色が脳出血です。

左上から頻度の多い順に並んでいます。被殻出血・視床出血・脳幹出血・皮質下出血・小脳出血です。出血部位の右に発症頻度を赤色%で示しています。最も多いのが被殻出血(40%)、次いで視床出血(30%)です。脳幹出血・皮質下出血・小脳出血がそれぞれ10%ずつです。脳出血の頻度については、これまで多くのテキストにこう示されています。おおむね間違ってはいないのですが、近年の研究では別の報告がなされています。被殻出血は着実に減少しているのに比べ、視床・皮質下・橋の各出血頻度は時間とともに増加しています。脳卒中の大規模調査で有名なものに、久山町研究があります。同研究では、1988年~2001年の脳出血部位別頻度を、以下のように発表しています。

脳出血部位別頻度
被殻  24%
視床  36%
皮質下 19%
橋   11%
小脳  6%
その他 4%

https://www.hisayama.med.kyushu-u.ac.jp/ 九州大学大学院医学研究院 衛生・公衆衛生学分野久山町研究室を参考に筆者が作成

脳出血の分類

脳出血を部位別に説明していきます。

被殻出血

被殻出血の主な原因血管は、中大脳動脈の穿通枝であるレンズ核線条体動脈です。特徴的な症状は意識障害・片麻痺・感覚障害・共同偏視・同名半盲・失語症(優位半球)・失行・失認・半側空間無視などです。特に特徴的な症状は、出血により内包後脚が圧迫されて生じる片麻痺・感覚障害です。再出血・脳浮腫により症状が悪化する可能性があります。

視床出血

視床出血の主な原因血管は、視床穿通動脈や視床膝状体動脈です。症状は片麻痺・感覚障害・縮瞳・対光反射消失・減弱・眼球の内下方偏位(鼻尖凝視)・視床失語などです。意識障害・感覚障害が強くなる傾向があります。また視床痛とよばれる、激しい自発痛や痛覚過敏を生じることもあります。

皮質下出血

皮質下出血の主な原因血管は、前中後大脳動脈の皮質枝です。症状は頭痛・痙攣などですが、このほか多彩な巣症状が特徴です。巣症状を皮質症状ともいいます。皮質下、つまり脳の表面に近い部分の出血ですので、出血した部分に応じた多彩な大脳皮質症状を生じます。代表的な症状を表に示します。

脳幹出血

脳幹出血の主な原因血管は橋動脈です。特徴的な症状は強い意識障害・呼吸障害です。他にも瞳孔の高度縮小・眼球正中固定・四肢麻痺・除脳硬直・自律神経症状・嚥下障害・閉じ込め症候群などが起こり得ます。呼吸中枢の障害により、急激な呼吸障害を来す可能性があります。CTでは脳幹に比較的小さく見える出血があり、一見軽症に見えます。ただ、大脳と異なり脳幹は小さなスペースにあります。例え少しの出血でも、重症になりうることを注意してください。

小脳出血

小脳出血の原因血管は上小脳動脈です。症状は、強い後頭部痛・回転性眩暈・嘔気・嘔吐・失調症状・起立歩行障害・対側への共同偏視などです。小脳前方には脳幹があり、出血・脳浮腫によって脳幹圧迫が起こります。また第4脳室を圧迫しやすく、急性水頭症をおこします。急変リスクが高いと言えます。尚、生命危機を脱しても小脳症状が強く残り、離床・リハビリがスムーズに進まないこともしばしば起こります。CTでは後頭蓋下に出血を認めます。

まとめ

脳出血とは

  1. 脳血管が破綻して脳内に出血した状態
  2. 高血圧・糖尿病が発症のリスクを高める
  3. 麻痺・感覚障害・失語など、出血部位に応じた多彩な症状を来す
  4. 大量出血は頭蓋内圧亢進・脳ヘルニアに伸展し、生命に危険を及ぼす


脳卒中を知れば、治療が予想できます。治療が変われば看護も変わります。目の前の患者さん「どんな脳出血かな?」と意識してみてください。自分にできることが見えてきます。

本サイトの情報が、より良いケアの手助けになれば嬉しいです。

ABOUT ME
小林 雄一
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師「看護師失格?」著者 看護師の育成に取り組むと同時に、看護師の対人関係能力向上に貢献するため、面談・セミナー・執筆活動を行っています。