頭蓋内圧亢進症は、急性期脳卒中を扱う看護師にとって避けて通れない症候です。
脳卒中で人が死ぬ前には、原則頭蓋内圧亢進症が起こります。重症脳卒中の場合、頭蓋内圧亢進症は脳ヘルニアに進行し、いずれ脳幹機能が障害されます。この頭蓋内圧亢進症・脳ヘルニアを起こす経過で脳神経疾患特有の症状が現れるため、バイタルサイン変化と脳神経症状の観察が重要な意味を持ちます。
こうして早期に頭蓋内圧亢進症を発見できた場合、治療ができます。今回は、この頭蓋内圧亢進症の治療をまとめます。
治療を受ける患者さんに対し私たち看護師に何ができるのか、一緒に考えていきましょう。
外科的治療
外科的治療には大きく分けて、以下の4種類があります。それぞれを説明します。
- 原因疾患の根治治療
- 髄液の排出
- 外減圧術
- 内減圧術
原因疾患の根治治療
原因疾患の根治治療です。頭蓋内に腫瘍や出血などが発生し頭蓋内圧が高まったとき、その腫瘍や血腫を外科的に取り除く治療です。
頭蓋内圧亢進を起こした原因を除去する、考え方としてはシンプルな治療ですね。
髄液の排出
髄液の排出です。頭蓋内に腫瘍や出血などが発生し頭蓋内圧が高まったとき、その腫瘍や血腫を外科的に取り除く代わりに髄液を頭蓋外に排出します。元々の量より髄液が減り、頭蓋内圧が低下するという治療です。
先述の原因疾患の根治治療と併用されたり、根治治療までの一時的な治療として用いられたりします。
急性期では髄液ドレナージ、亜急性期以降はシャント術が用いられることが多いです。
髄液ドレナージ
- 脳室ドレナージ
- 脳槽ドレナージ
- 腰椎ドレナージ
シャント術
- 脳室腹腔シャント (V-P shunt)
- 腰椎腹腔シャント (L-P shunt)
- 脳室心房シャント (V-A shunt)
外減圧術
外減圧術です。頭蓋内に大きな出血などが発生すれば、頭蓋内圧が急激に高まります。そのままだと脳ヘルニアに移行し、脳幹機能が廃絶します。これを避けるために外科手術で頭蓋骨を外し、圧が逃げるようにする治療です。
生命を守る手術ですが、外減圧をするということはすでに脳に重大なダメージを来している可能性が高いです。生命予後が良くなったとしても、機能予後が良くなる保証はありません。
一方、頭蓋内圧亢進症・脳ヘルニアを予見し、原因疾患の根治治療に加えて早めに外減圧を行うこともあります。この場合、機能予後をある程度期待した治療と言えます。
内減圧術
内減圧術です。外減圧術は骨を外しますが、内減圧術は脳実質を除去します。少し古い教科書では、「切除しても機能障害がないか、少ない脳実質を切除する」と表されています。
過去には、右前頭葉は機能障害が少ないと考えられていたようです。現在では「機能障害が少ない脳」はないと考えるのが妥当です。このため「機能障害を生じるが、生命を救うためやむなく脳実質を最小限に切除する手術」という位置づけです。
外減圧術に比して内減圧術と呼ばれます。
内科的治療
内科的治療には大きく分けて、以下の3種類があります。それぞれを説明します。
- 浸透圧利尿剤の投与
- 呼吸管理
- コーマ療法
浸透圧利尿剤の投与
浸透圧利尿剤を静脈投与(点滴)します。この薬剤の作用である浸透圧差により、脳の細胞外腔から血管内に水分を引き戻し、尿として体外に排出します。結果的に脳細胞の水分が減り、頭蓋内圧が低下するという治療です。
主にグリセロール製剤が使用されます。
以前はマンニトールもよく使われていましたが、現在はあまり使われません。マンニトールは頭蓋内圧を低下させる作用が強いですが反張作用(リバウンド)も強く、投与前より頭蓋内圧が高まってしまうという副作用があります。
グリセロール製剤は肝臓に負担をかけ、マンニトール製剤は腎臓に負担をかけるため注意しながら使用します。
呼吸管理
呼吸管理です。これは、気管内挿管・薬剤による鎮静下で患者を意図的に過換気にし、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)を20~25mmHgにコントロールするものです。
二酸化炭素は全身の動脈を強力に拡張させる化学物質です。全身の動脈が拡張するということは、脳血管も同様に拡張します。脳血管が拡張すれば、頭蓋内圧は上昇します。頭蓋内圧亢進症が悪化するのです。
呼吸管理により過換気状態にすることで、血管内のCO2濃度が低下します。その結果、脳血管が収縮し頭蓋内圧亢進が軽快するという治療です。
呼吸管理による脳血流量の変化
動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が脳血流に与える影響をグラフで示します。動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が増加すれば、脳血流量が直線的に増加することがわかります。
動脈中の二酸化炭素は脳血管を拡張させ、脳血管拡張は頭蓋内圧を亢進させることが伝わると思います。
呼吸管理の重要性
ここまでお話ししてきた呼吸管理がなぜ重要か、図にしました。急性期重症脳卒中患者が、頭蓋内圧亢進症の負のスパイラルに陥らないようにしたいですね。
呼吸管理は、低換気によるPaCO2上昇を抑える治療です。
コーマ療法
コーマ療法です。コーマ(Coma)とは意識のことで、意識レベルを低下させる治療を指します。先述の呼吸管理と同時に行われると思って頂いて良いです。
この治療は、気管内挿管・人工呼吸器管理下で麻酔による昏睡状態をつくります。昏睡状態になれば、脳は機能しませんから脳血流量・脳代謝が低下します。これにより頭蓋内圧が低下するという仕組みです。
ただし意図的に昏睡状態にするのですから、コーマ療法・呼吸管理は合併症に注意が必要です。
合併症には、感染症・廃用症候群・消化管出血などがあります。さらに、昏睡状態ですので脳神経症状の観察が難しくなります。
自覚症状には頼れなくなりますから、看護師による他覚症状の観察が大変重要になります。
まとめ
頭蓋内圧亢進症の治療について考えてきました。
- 外科的治療・内科的治療共に様々な方法がある
- これらは、頭蓋内圧亢進症と脳ヘルニアによる生命危機・機能障害を最小限にするための治療である
- 多くの治療に対し、看護が存在する
- 脳ヘルニアになる前の状態で発見・対処すれば、予後は良くなる可能性がある
私たち看護師も、治療を行っているという認識で患者に臨みたいですね。
本記事が脳神経ナースのお役に立てば嬉しいです。