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【ホントに知ってる?くも膜下出血の治療】

くも膜下出血とは

脳卒中とは死亡する人が多く・後遺症が残る疾患です。脳卒中とは、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血の3つです。脳卒中のうち、患者数が最も少ないのがくも膜下出血です。

くも膜下出血とは、脳動脈瘤が破綻してくも膜下腔に出血した状態です。動脈性の出血ですから、急激な頭蓋内圧亢進により死に至ることがあります。脳卒中の中でも特に死亡しやすく、後遺症の残りやすい疾患と言えます。

この記事では、くも膜下出血の治療を説明します。

開頭術

くも膜下出血治療(脳動脈瘤の根治術)のうち、開頭術を説明します。主な手術にクリッピング・トラッピング・動脈瘤被包術(ラッピング・コーティング)があります。

クリッピング

クリッピングとは開頭後、脳動脈瘤の頸部にクリップをかけ動脈瘤内の血流を途絶させる手術です。母血管を狭窄・閉塞させないことが重要です。開頭により血腫除去を同時に行うため、脳血管攣縮予防に効果があると考えられます。

全身麻酔により頭蓋骨を開頭する手術です。長時間の麻酔・手術のため侵襲が高く、重症者・高齢者に適応できないことがあります。

脳動脈瘤・クリッピングのイメージと術中写真を示します。

https://www.kango-roo.com/sn/k/view/3350 看護rooより転載

術中写真

トラッピング

トラッピングとは動脈瘤前後で母血管をクリッピングし、血流を遮断する手術です。前述のクリッピング術が適応できない場合に実施されることがあります。

脳動脈バイパス術を同時に行い、脳血流を確保することが多いです。

トラッピング・バイパスのイメージを示します。

https://www.kango-roo.com/sn/k/view/3350 看護rooより転載

ラッピング・コーティング

ラッピング・コーティングは、クリッピング・トラッピングのいずれも困難な場合に適応になります。脳動脈瘤の壁を、特殊なのりで補強する手術です。

再出血率はクリッピングに比べて高いと言われます。

ラッピング・コーティングのイメージを示します。

https://www.kango-roo.com/sn/k/view/3350 看護rooより転載

血管内コイル塞栓術

つぎに、血管内コイル塞栓術を説明します。血管内コイル塞栓術は、脳動脈瘤内にマイクロカテーテルを挿入し行う手術です。

脳動脈瘤内に複数本のプラチナコイルを充填します。これにより脳動脈瘤内の血流が途絶え、いずれ脳動脈瘤が血栓化します。この結果、脳動脈瘤が破裂しなくなります。

開頭術に比べ低侵襲であり、高齢者・重篤者にも実施できることが利点です。また、椎骨脳底動脈系や(後方循環)、中枢に近い内頸動脈などに適応となります。開頭術ではアクセスし辛い部位の脳動脈瘤も適応になります。

血管内コイル塞栓術の、術中・術後の血管造影画像を示します。

脳動脈瘤にプラチナコイルが充填され、血流が途絶えていることがわかります。これにより、脳動脈瘤破裂を回避できたと考えられます。

血管内コイル塞栓術 術後管理

塞栓性合併症

血管内コイル塞栓術の術後管理を説明します。術後には塞栓性合併症の可能性があります。専門の治療器具とはいえ、血管内に異物を挿入し操作をするため血栓が形成されてしまいます。この血栓が動脈に乗って末梢に到達し脳血管を塞栓させれば、脳梗塞を発症します。


この塞栓性合併症を回避すべく、経静脈的抗血栓療法を実施します。そして、急性期以降に経口抗血栓薬に移行します。

出血性合併症

ところが手術によって動脈に傷をつけているので、抗血栓療法は穿刺部から出血するリスクを作ることにもなります。このため、穿刺部血腫・仮性動脈瘤形成にも注意が必要です。

特に止血が充分でない場合、穿刺部に皮下血腫(血の塊)ができ、時には仮性動脈瘤が生じます。仮性動脈瘤に至った場合、仮性動脈瘤により周囲組織を圧排します。特に動脈を押しつぶし、末梢への血液循環が途絶するという重大な懸念があり早期の対応が必要です。緊急手術になることもあるので、要注意です。

また患者には強い疼痛があり、仮性動脈瘤による周囲組織損損傷・皮膚損傷に至ります。2重・3重の治療が必要になることから、患者に多大な負担を強いることになります。

血管内コイル塞栓術 欠点

血管内コイル塞栓術は、原則的には侵襲度の高くない優れた治療と言えます。一方、前述の術後管理の難しさに加え、治療上の欠点もあります。脳動脈瘤が完全閉塞が出来ないケースがあります。

また術後、コイル塊が縮小してしまい、動脈瘤の増大がありえることです。コイルコンパクションと呼びます。

さらに、クリッピングに比べて長期成績が乏しいことも欠点と言えます。クリッピングに比べれば血管内コイル塞栓術の歴史は浅いため、数十年後の状態はまだわからないというのが実情です。

ただ近年症例数は激増しており、成績の蓄積は進んでいます。適切な外来通院・画像診断で長期予後はアフターフォローできるというのが一般的な見解です。

最後に、術中破裂への対応が困難なことも忘れてはなりません。術中に破裂・再破裂した場合、実質的に対応は困難です。開頭クリッピングに移行することを、常に視野においておかなければなりません。

ドレナージ術

くも膜下出血の治療のひとつに、ドレナージ術があります。

この治療の目的は、くも膜下出血による血腫の排出(脳血管攣縮予防)と、髄液排出による頭蓋内圧のコントロールです。ドレナージ術の種類には、脳室ドレナージ・脳槽ドレナージ・腰椎ドレナージ(スパイナルドレナージ)があります。

脳脊髄液を排出するという他の領域にはない特殊な治療であり、その管理も独特なものです。詳細は別の機会に取り上げます。

髄液ドレナージの概略イメージ ※実際の髄液ドレナージの方法とは異なります

くも膜下出血の合併症と治療

ここで、くも膜下出血の重要な合併症と治療を見ていきます。脳血管攣縮と正常圧水頭症です。

脳血管攣縮

脳血管攣縮(vasospasm)とは、くも膜下出血に伴い脳の動脈が痙攣性に収縮してしまうことです。原因はいまだ明確にされていませんが、くも膜下に広がった出血が血管壁に作用して血管が収縮すると考えられています。


くも膜下出血発症後4~14日目の間に生じ、8~10日目にピークを迎えます。中には数カ月間持続する事例もあります。一般的には2週間程度を乗り越えれば、脳血管攣縮期を脱したと考えてよいでしょう。

下の画像は、脳血管攣縮前と後の血管造影画像です。左の画像では移っている血管が、右では大変細くなっています。ここが脳血管攣縮であり、それより末梢の血流が低下します。

脳卒中関連部署で働かれている方は、その頻度をどう捉えておられますか。よく遭遇すると感じる人もあれば、めったにお目にかからないと感じる人もおられるでしょう。

脳血管攣縮は、各報告により30~70%とばらつきがあります。症候性(症状が現れる)であれば、さほど多く感じないかもしれません。ただ、無症候性(症状に表れないが、血管造影などでは存在が認められる)も含めると相当数存在します。


この脳血管攣縮の問題は、脳血管が痙攣性に収縮することにより血流が低下し、結果的に脳虚血を生じてしまうことです。重度の場合は脳梗塞になります。出血の治療をしていたのに、梗塞になるのです。こうして脳梗塞となれば、脳梗塞の治療が始まります。

脳血管攣縮の治療

脳血管攣縮に用いられる治療に、手術・脳槽ドレナージによる血腫除去があり、塩酸ファスジルやオザグレルナトリウムなどの脳血管攣縮抑制薬剤投与も有効とされます。

また、triple H療法を考慮してもよいとされています。

triple H療法

  1. 人為的高血圧 (Hypertension)
    • 血圧を高めに維持する
  2. 循環血液量増加 (Hypervolemia)
    • 全身血液量を増やす
    • 輸血・アルブミン製剤投与による、血管内脱水是正
    • 昇圧剤を使用し、心拍出量増加
  3. 血液希釈 (Hemodilution)
    • 血液の粘稠性を減らす(低分子デキストラン)

3つの頭文字をとって、triple H療法と呼びます。

さらに脳血管攣縮の程度によっては、血管内治療も考慮されます。血管内治療には、血管拡張薬の選択的動脈内投与や経皮的血管形成術(PTA)があります。

また2022年1月には、あらたにクラゾセンタンナトリウムが治療薬として使用されています。

この薬剤投与により、「脳動脈瘤によるくも膜下出血術後の脳血管攣縮、及びこれに伴う脳梗塞及び脳虚血症状の発症抑制」が期待されます。一方、重大な副作用として「体液貯留[胸水(13.3%)、肺水腫(11.0%)」などが挙げられており、慎重な管理が必要です。

クラゾセンタンナトリウムの詳細は、「製品情報と関連する資料」リンクを確認ください。

正常圧水頭症

くも膜下出血後の続発性正常圧水頭症について説明します。

正常圧水頭症は、くも膜下出血による髄液循環と髄液吸収障害が起こり、その結果として脳室拡大に至る症候です。発生時期はくも膜下出血発症後約3週間以降で、代表的な症状は歩行障害・認知症・尿失禁です。

発生機序

髄液循環の概要を動画で示します。髄液は側脳室脈絡叢で産生され、一方は脳の表面を循環しくも膜顆粒で吸収されます。もう一方は脊髄を循環して、同じくくも膜顆粒で吸収されます。

髄液を吸収すると言われている、くも膜顆粒は脳の表面にあります。このくも膜顆粒に血液成分が詰まって、髄液が吸収されなくなると考えられています。その結果、頭蓋内に髄液が貯留して正常圧水頭症になります。

髄液循環と正常圧水頭症

画像診断

頭部CT画像です。単純CTでは、骨が白・髄液が黒・脳実質が灰色に写ります。左が正常なCT、右が正常圧水頭症のCTです。

髄液がたまっている部分、「側脳室」が異常に拡大していることが分かります。髄液貯留により、内側から脳が圧排され機能障害を来します。この結果、代表的な症状である歩行障害・認知症・尿失禁を生じます。

治療

正常圧水頭症の治療には、髄液シャント術があります。髄液シャント術とは、脳室内にたまった髄液を体内の他な部位に流し、脳室を縮小させる手術です。

代表的なものは3種類あり、脳室―腹腔短絡術 (V-P shunt)・腰椎―腹腔短絡術 (L-P shunt)・脳室―心房短絡術 (V-A shunt)と呼ばれます。

http://www.suitoushou.jp/treatment/operation.htmlより転載

髄液シャント術合併症

髄液シャント術の合併症には、シャント機能不全・シャント感染・髄液過剰排出などがあります。

合併症の原因と症状を示します。髄液シャント術後の患者に以下の症状が現れた場合、合併症を疑い早期治療に繋げます。

  1. シャント機能不全
    • 原因:シャントチューブの閉塞・屈曲
    • 症状:水頭症
  2. シャント感染
    • 原因:創部感染・血行感染
    • 症状:シャントシステム経路に沿った感染徴候・炎症反応 
  3. 髄液過剰排出
    • 原因:設定圧不良
    • 症状:低脳圧症状
  4. その他
    • 腸閉塞・腸管穿孔・腹水・血栓症など

まとめ

  1. 脳動脈瘤の治療(再破裂の予防)
    • 開頭術
    • 血管内コイル塞栓術
  2. 脳血管攣縮の治療
    • 手術による血腫除去
    • 髄液ドレナージ
    • 抑制薬投与
    • tripleH療法
    • 血管内治療
  3. 水頭症の治療
    • 髄液シャント術

くも膜下出血の治療を、主に脳動脈瘤・脳血管攣縮・水頭症に着目して示しました。治療が変われば、看護も変わります。治療を知って、合併症の早期発見・治療につなげたいですね。

死亡しやすく後遺症の残りやすいくも膜下出血、必然的に入院期間が長くなり、看護師の活躍する機会も多くなります。

本サイトの情報が日々の看護のお役に立てば嬉しいです。

ABOUT ME
小林 雄一
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師「看護師失格?」著者 看護師の育成に取り組むと同時に、看護師の対人関係能力向上に貢献するため、面談・セミナー・執筆活動を行っています。