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脳卒中の基礎知識

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【ホントに知ってる?脳梗塞の治療】

脳梗塞とは

脳卒中とは死亡する人が多く・後遺症が残る疾患です。脳卒中とは、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血の3つです。脳卒中のうち最も多いのが脳梗塞です。

脳梗塞とは、脳の血管が狭くなったり詰まったりした結果、その先に血液が流れなくなるため、脳の細胞や組織が壊死してしまうことです。脳血栓と脳塞栓に分類され、発症原因によりアテローム血栓性脳梗塞・心原性脳塞栓症・ラクナ梗塞に分けられます。

この記事では、脳梗塞の治療を説明します。

治療のメインテーマ

脳梗塞の治療のメインテーマは、脳血流の改善と脳梗塞の拡大防止です。すでに脳梗塞が完成した部位は、残念ですが救うことはできません。不可逆性変化(元に戻らない変化)を来しているからです。一方、脳梗塞になって間もない脳には、救うことができる部位が広くあります。虚血状態に落ち入っているものの、まだ完全に脳梗塞となっていない部位があり、これをペナンブラといいます。

脳梗塞が完成した部分の周囲に、ペナンブラが存在し、さらにその周囲に貧困灌流があります。この2つの領域を救うことができるか否かで、生命予後・機能予後・残存能力には大きな差が生じます。脳梗塞発症からおよそ1~2週間は、このペナンブラを救う余地があるといわれています。この時期に閉塞血管の自然開通や、血管内治療・血栓溶解療法による血流再開ができればペナンブラ・貧困灌流領域が救える可能性があります。

だから、迅速で適切な急性期治療が大切なのです。

治療の方向性

脳梗塞治療という言葉には、多くの意味が含まれます。ここではまず、脳梗塞治療の方向性を示します。大きく分けて3つ、「血栓処理、梗塞巣拡大防止、脳浮腫・脳ヘルニア防止」があります。

  1. 血栓 処理
    • 血栓溶解療法、血栓回収療法、経皮的血管形成術
  2. 梗塞巣拡大 防止
    • 抗血小板療法、抗凝固療法、脳保護療法
  3. 脳浮腫・脳ヘルニア 防止
    • 抗脳浮腫療法、開頭減圧術

血栓溶解療法

経静脈的血栓溶解療法、通称rt-PAです。詰まった血栓をターゲットに、rt-PA(組織プラスミノーゲンアクチベータ)という薬剤を点滴・静脈注射します。すると血栓が溶けて、血流が再開通するという具合です。

鹿児島医療センターHP 2019.6.15 より転載

事例を示します。左中大脳動脈M2部閉塞です。黄色の矢印の部分に本来は血管がありますが、写っていません。そこで脳梗塞発症2時間7分で、rt-PAを投与しました。

先程見えていなかった部分に血管が写るようになり、MRI(拡散強調像:DWI)でも早期虚血変化は見られません。脳梗塞は完成しなかったということです。違いが伝わるでしょうか。

ただしこれは奏功例です。常にうまくいくわけではありません。 

経静脈的血栓溶解療法(rt-PA)の適応

経静脈的血栓溶解療法(rt-PA)は、時に絶大な治療効果を示します。完全に元通りになることもあります。その一方で、重大合併症のリスクと隣り合わせな治療でもあります。

このため適応基準・除外基準が定められており、厳格なルールに基づいた観察・評価が求められます。
以下に適正治療指針を紹介します。

経静脈的血栓溶解療法(rt-PA)

  1. 適応
    • 発症後4.5時間以内の虚血性脳血管障害
    • 適応外項目あり
  2. 発症時刻
    • 症状出現が明らかな時刻
    • 無症状であることが最後に確認された時刻
    • 発症時刻が不明な時でも、頭部 MRI 拡散強調画像の虚血性変化が FLAIR 画像で明瞭でない場合 には発症 4.5時間以内の可能性が高い。このような症例に静注血栓溶解療法を行うことを、考慮しても良い【C1,中】 2019.3
  3. 方法
    • アルテプラーゼ0.6mg/kgの10%を急速静注
    • 残りを1時間で静注
    • 治療開始後24時間は、厳重な血圧管理と抗血栓療法の制限
    • 抗凝固剤内服後4時間以内の場合、適応外
    • ダビガトラン(プラザキサ)のみ、抗凝固中和の余地あり 2019.3
静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版  2019 年 3 月  日本脳卒中学会 脳卒中医療向上・社会保険委員会 静注血栓溶解療法指針改訂部会

血栓回収療法

血栓回収療法を説明します。現在良く使われるものは2種類あります。吸引型カテーテルとステント型血栓回収機器です。

吸引型カテーテルは、カテーテルを閉塞部位の近位に運び、血栓を吸引して回収します。

ステント型血栓回収機器(stent retriever)は、ステントにより血栓を絡めて捕捉・回収します。 


吸引型カテーテル

カテーテルを閉塞部位の近位に運び、血栓を吸引して回収
※ Penumbraシステム など

ステント型血栓回収機器(stent retriever)

ステントにより血栓を絡めて捕捉・回収
※ SolitaireTMFR、TrevoProVue など

池田亮.早期離床・廃用症候群・栄養管理“早期離床”.脳卒中急性期 観察とドクターコール 日総研出版.2015.73 より転載・改変

このうち、ステント型回収機器治療の想像がしにくいという声をよく聞きます。イメージ動画で確認しましょう。


日本メドトロニック株式会社 HPより 2021.3.1

血栓が脳動脈を閉塞させました。末梢に虚血を生じています。ガイドワイヤを推し進め、それにそってカテーテルを通し、その後ステントを留置しました。ステントは自己拡張します。これで血流が一部改善しました。充分ステントが拡張したら、カテーテルをゆっくり引いていき血栓を回収します。そして血栓を体外に出します。

回収した実際の血栓です。血栓回収療法に携わるかたは、実物を見たことがあるでしょう。回収されて出てきた血栓、相当大きくて長いという印象を持ちます。「これはrt-PAでは融けないだろうな」と感じることがあります。

経皮的血管形成術

経皮的血管形成術、通称PTA(percutaneous transluminal angioplasty)です。バルーンを用いた血管形成術・血栓破砕術です。風船を膨らませて、閉塞・狭窄した血管を広げるイメージですね。

池田亮.早期離床・廃用症候群・栄養管理“早期離床”.脳卒中急性期 観察とドクターコール 日総研出版.2015.72 より転載・改変

梗塞巣拡大 防止

次に梗塞巣拡大に対しての治療を紹介します。代表的なものは血小板療法・抗凝固療法・脳保護療法などで、いわゆる脳梗塞の内科的治療にあたります。よく使われる薬剤を一覧にしています。一般的なものはおおむね網羅しているはずです。適応と使用の注意などを確認ください。

池田亮.早期離床・廃用症候群・栄養管理“早期離床”.脳卒中急性期 観察とドクターコール 日総研出版.2015.75 より転載

脳浮腫・脳ヘルニア 防止

重症脳梗塞の場合、脳浮腫・脳ヘルニアへの対応が必要となります。前述の抗脳浮腫療法に加え、救命のために開頭減圧術を行うケースがあります。

脳浮腫・脳ヘルニア治療の詳細は、別記事で解説しています。ご確認ください。

脳梗塞の治療 まとめ

脳梗塞の治療をまとめます。

  1. 脳血流の改善と脳梗塞の拡大防止を目指す
  2. ペナンブラ・貧困灌流領域を救う
  3. 血栓、梗塞巣拡大、脳浮腫・脳ヘルニアに対して治療する

脳梗塞の治療を知れば、次に何をすればいいか予想できます。治療が変われば看護も変わります。目の前の患者さん、「これからどうなるのか」意識してみてください。

本サイトの情報が、より良いケアの手助けになれば嬉しいです。

ABOUT ME
小林 雄一
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師「看護師失格?」著者 看護師の育成に取り組むと同時に、看護師の対人関係能力向上に貢献するため、面談・セミナー・執筆活動を行っています。