本記事は対人関係に悩みを抱える人が現状を見つめなおし、対人関係の課題に取り組むきっかけをつかむことを目的にお送りしています。
現場の看護師から受ける相談や、私が経験した事例をもとに一緒に考えていきます。
今回のテーマは、「部下に無視された」です。
無視されたら
「部下に無視された」、管理職の方からこのような相談を受けます。相談の中では割と頻度の多い印象です。
無視をされたと感じた上司は、「腹が立つ・戸惑う・どう指導したらいいのかわからない」と言います。おそらく上司として何か話しかけたり、指示をしたりしたのでしょう。その際、無視されたという訴えです。
収まらない怒り
面談を始めると、上司であるAさんは怒りが収まらない様子です。Aさんは、「無視をするような部下は社会人として失格!」と厳しく糾弾します。仕事をするには不適格といい、配置換えや降格にまで言及します。
職務遂行のために部下に指示をしたのに、無言で通り過ぎる。書類を渡しても「あぁ」とだけ返事して受け取り、目も合わせない。そこで「どうして返事しないの?」と問い詰めると、無視をするようになった。気のない返事や無視に耐え兼ね「ちょっと話そう」と提案すると部下は意外に快く応じ、面談の日時を取り付けた。ところが面談日時に約束の場所に現れないため、催促の電話をすると「師長はいつも自分のことしか考えてない。話す気が無くなる。私のことを何も考えてない」と糾弾される始末。
こうしていよいよ我慢が限界に達し、強く叱りつけようとしたときに限って部下は明朗に返事をし、明るく応対してくれる。そればかりか、部下から依頼があるときは「A師長~、これお願い~。頼りにしてます。」と機嫌よく接してくる。そういわれるとまんざらでもなく、「無視されたときはたまたま機嫌が悪かったのかな?」と思う。
ただこれも長くは続かず、ある日突然また無視される状態になる。この繰り返しが続いており、ほとほと疲れ果て困っているといった事例です。
部下の態度を改める?
さて、この事例ではAさん(上司)と部下の方の関係はあまり良くなさそうです。今回は上司からの相談なので、上司としてどうすればいいかを考えてみます。
比較的冷静な態度の上司であれば、部下の上手い叱り方とか説得する方法を教えてほしいといいます。一方、権威的で感情的な上司はどう部下の態度を改めさせるかの方法を望みます。罰を与えてでも態度を変えさせようとし、それが叶わぬなら職務上の権力を乱用しようとします。異動や降格です。
今回のAさんは、どちらかというと後者です。権威的で感情的に接するのは論外ですが、上手く叱る・説得するも適切な関わり方ではありません。それは、いずれの方法も「部下の態度を改めさせよう」としているからです。上司がいくら不快に感じようが、それは上司自身が解決する課題です。「部下を変えよう」としてはなりません。そもそも他者を変えることはできません。
もしこれまでに「自分が部下を変えた」と思っていことがあるなら、勘違いです。変えたと思っているだけです。この部分を認識できていないと、部下との関係がよくなることはありません。当然、無視をすることは止みません。
互いにコントロールされている
それではどうすればいいのか、考えてみましょう。「無視される」という行為は刺激的なため不快を感じやすいです。上司は無視されたことを鮮明に記憶し、恨みを募らせます。ただ、少しだけ冷静に振り返ってみると、無視する反面「快く対応したり、機嫌よく接してくれたりする」という出来事が思い当たります。
上司であるAさんは、部下にコントロールされているように見えます。部下はAさんのふるまいを実によく観察しており、どうすれば自分の思い通りに動かせるかを考えているように見えます。無視と捉えられるような態度をとり、不遜な振る舞いで不快感を与え、そこに着目したAさんが指摘をすれば歩み寄る姿勢を見せる。にもかかわらず約束を反故にし、さらに指摘をすれば上司としての至らなさを糾弾される。ところが一転してすり寄るような姿勢もみせ、Aさんはまんざらでもない。
私には、上司であるAさんも部下も全く同じようなコミュニケーションをとっているように見えます。報復合戦とも言えます。とても健全なコミュニケーションには思えませんが、それでもお互い離れられないのです。不安や寂しさを二人で慰めあっているようにすら感じます。
上司と部下の適切な関係
上司と部下は友達ではありません。まして、恋人や夫婦のようなパートナーでもありません。親子でもきょうだいでもないはずです。仕事上の関係に過ぎないのに、それ以上の関係をお互いが求めています。これでは対人関係は上手くいくはずがないのです。部下に無視されれば、確かに気持ちはよくありません。嫌な気持になるのはもっともです。それでも、部下を変えようとするのは横暴だと思います。
まずは、お互いが「仕事の関係」であることを認識しましょう。仕事には共通の目標があります。成果を出すことです。つまり、仕事の関係であればそれ以上仲良くする必要はないのです。逆に言えば、仕事の関係は近すぎても遠すぎても成立しません。仕事の時間が終われば、お別れする関係なのですからお互いに依存するのはやめましょう。
そしてなぜ、お互いに依存しなければならないのか自分に問うてみましょう。おそらく、精神的に自立できていないからです。そして、仕事以外のもっと距離が近い人との関係が適切ではないのでしょう。具体的にはパートナーや家族、あるいは友人との関係が対等なものではないのだと推察します。
満たされない気持ちを穴埋めするために、上司・部下に甘えているのです。
おわりに
上司と部下の関係を事例に、対人関係を考察してきました。
もちろん仕事の関係として始まった関係が成熟し、友人の関係に発展することはあります。さらにパートナーの関係になることもあり得ます。対人関係の距離は、仕事・交友(友人)・愛の順に近く(深く)なるといわれます。同じ順序でその課題は難しくなるのですが、その意味は理解いただけると思います。
いずれの関係でも、お互いの精神的自立がないと依存的な関係に陥りやすいことは覚えておいてください。
上司と部下の適切な関係、あなたはどう考えますか。
この記事に登場する人物・事例・団体などはすべて架空のものです。筆者の所属施設・関連施設とは一切の関係はありません。プライバシーに配慮して、実際の事例をもとに内容を構成したものを掲載しています。