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対人関係

こんな時どうする?
【クレームが治まらない】

本記事は対人関係に悩みを抱える人が現状を見つめなおし、対人関係の課題に取り組むきっかけをつかむことを目的にお送りしています。
現場の看護師から受ける相談や、私が経験した事例をもとに一緒に考えていきます。
今回のテーマは、「クレームが治まらない」です。

クレームとは何か

「クレーム」、多くの看護師にはあまりうれしくないものです。クレームとは「サービスに対する苦情や改善要求、契約あるいは法律上の権利請求」を指す和製英語です。

看護師が受けるクレームの多くは、顧客に相当する患者・家族から寄せられます。クレームを受けた際、私たちは戸惑いどう対応すればいいのか迷います。クレームを寄せる側の患者・家族は決して穏やかな心情ではありませんから、言葉が乱暴になったり感情をあらわにされることもあります。こうして批判する側・される側ともに、精神的負担を感じるのがクレームです。

クレームの影響

一人の看護師としては、「こんなに一生懸命やっているのに、ひどい!」と感じる場合もあるでしょう。自身の努力が報われず、ともすれば裏切られたような感覚になり、患者・家族に否定的な感情をもつことはあり得ます。自尊心を傷つけられた看護師が、患者・家族を受け入れることができなくなり、心の距離が開いてしまうことも想定されます。さらにその負の感情は集団に広がりやすく、その姿勢が患者・家族に伝わり一層関係性が悪くなるという場合もあります。

このように、クレームとは患者・家族はもちろん、看護師にとっても重い課題です。

看護師の負担

ただ、それでも患者・家族に否定的な感情を持ち、それを不要に増幅させることは厳に慎まなければなりません。クレームを受けた時の精神的負担は十分理解できますが、感情に支配されれば人は判断力を失います。

患者と呼ばれる人は、病院や施設に入院しているのです。少なくとも身体的・精神的な機能低下があり、精神的不安定状態にあることは忘れてはなりません。生命に関わる疾患があればそれは破滅的と言えます。精神的不安定な患者・家族に、精神的不安定な看護師が関われば結果は見えています。お互いを批判し、傷つけあうような事態は大変不健全です。それより、私たち看護師にできることは何か考えるほうが建設的です。

クレームが持つ意味

ここで、「クレームの意味」を考えてみましょう。クレームとは、「サービスに対する苦情や改善要求、契約あるいは法律上の権利請求」でした。平たくいえば、「医療・看護サービスを良くしてほしい」です。クレームを寄せる人は何かしらの不満を感じており、それを改善してほしいのです。

クレームはしばしば看護師を不快にさせますが、それは伝え方が適切でないだけです。威嚇・大きな声を出す・怒鳴る・暴力・説教・不機嫌にふるまう・無視などで伝えようとするから、私たちは不快になるのです。適切な伝え方を知らない人は、残念ですがこのように振舞うしかないのです。

クレームにどう向き合うか

そう考えれば、「暴言・暴力ではなく、言葉で論理的に話してほしい」と誰かが伝えければなりません。私たちは、「そうでなければ受け入れない」と明確に表明してよいのです。

もし伝え方が適切であれば、クレームを聞くこと自体には全く苦痛を感じません。クレームの意味は改善要求です。ただ、それだけです。そうであれば真摯に対応し、改善するのは社会人・専門職として当然の姿勢ではないでしょうか。

クレームが一つ寄せられたということは、同様の課題が膨大に存在しており、そのうち勇気ある人が、一度声をあげたに過ぎないのです。声をあげられず、我慢している人がほかに多数いると考えるのが妥当です。

看護師にとって確かにクレームは嬉しくないですが、それは職場、ひいては社会を良くするための助言でもあります。軽く扱うことは許されません。クレームを軽く見る、まして黙殺するなどすれば組織の衰退を招きます。その場しのぎにはなるかもしれませんが、そのような組織や社会は健全なのか考えてみてください。

クレームに対し常に真摯に、誠実に受け止める姿勢が望まれます。

悪質なクレーム

 一方、クレームに関しては違う視点もあります。ここまで、真摯に誠実に対応する必要性を述べました。私が指摘するまでもなく、この記事を読まれている方はクレームが寄せられたとき、多くの場合冷静に誠実に対応されていると思います。

ところが、どんなに真摯に対応してもクレームが止まないケースが存在します。同じ患者・家族から次から次へとクレームが噴出し、指摘の矛先が変化するのです。指摘された問題に対応すれば、違う指摘をされる。それが何度も繰り返されれば、看護師は先が見えない感覚に陥ります。

こうして膨大な時間がクレーム対応に割かれ、他のスタッフにも多大な負担がのしかかります。当初対応したスタッフが疲弊し別な人が対応したとしても、執拗に指摘される。まるで揚げ足をとるように、看護師の言動を責められる。それでも、何とか解決を見出そうと根気強くスタッフ総出で対応し続けるが、クレームはエスカレートする。多くの人が無力感を覚え、途方に暮れる。このような経験はないでしょうか。

クレーマーの目的

これは完全に悪質なクレーマーです。おそらくこのクレーマーは、自分がなぜクレームを言っているか理解していないと思われます。もっと言えば、反射的に行動しているだけで何も考えていない(思慮深くない)可能性すらあります。

このような人は、ただ争いたいのです。看護師に対しクレームを口にすれば、当然看護師は対応せざるを得ません。自分が怒ればなだめてくれ、泣けば慰めてもらえ、無視をすれば話を聞きだしてくれます。

これがエスカレートしたのが、暴言・暴力です。暴言・暴力を実行すれば、看護師は怯え・服従するかもしれません。反面、怒鳴り返したり力で制止したりすることもあり得ます。いずれも看護師の対応に共通するのは、「相手にせざるを得ない」です。言い換えれば「相手にしてもらえる」、これが理不尽なクレーマーの目的です。

承認欲求

理不尽なクレームをつけ、対応してもらえれば承認欲求が満たされます。一方、理不尽なクレームにもし反論されても嬉しいのです。さらに、反論した人を言い負かせばとてつもない快感を得られます。これを権力争いと言います。

反面、弁が立つ看護師に論破されたとしましょう。それでも興奮が得られます。次はどうやってやっつけてやるかを考えることができます。復讐です。不快なのに興奮するのです。いずれも不健全な思考ですが、脳は興奮するため活力が湧くような錯覚は得られます。自身の存在を誇示できることは、承認欲求を満たします。

ただ、この承認欲求には際限がありません。だから、理不尽なクレームは終わらないのです。クレーマーは自身の歪んだ承認欲求を、看護師を利用して満たしているのです。

これらの理由から、どんな理由があっても看護師はクレーマーの挑戦に乗ってはいけません。

クレーマーとの関係

それでは、理不尽なクレーマーに遭遇した時どうしたらいいのかを考えます。まず、些細と思われることでも特別扱いをしません。他な方と同じように接します。仮にルールや規定に反する要望があったときは、丁寧にお断りします。「うちだけは特別に」とか「1回だけお願い」などと言われても、明確にかつ丁寧に拒否してください。

クレーマーは相手を切り崩すにはどうすればいいかを、初対面の時から見極めています。一つでも譲れば、要望は際限なく広がります。

患者・家族が理不尽な要望を繰り返すのであれば、それは明確に拒否しましょう。看護師は、患者・家族に寄り添うよう教育を受けます。患者・家族の不満には敏感に反応せざるを得ません。当初はクレーマーなのか、正当な不満の表明なのかは見極めにくいのです。そのため、要望やクレームがエスカレートしてから気づくのです。こうして、理不尽な要望を受け入れる事態になるまで伸展しやすいと考えます。

それ故、理不尽なクレームには「不満なお気持ちは理解できます。ただ、その要望は度が過ぎています。受け入れることはできません」と伝えなければならないのです。

もし、それで患者・家族との関係性が変化しても構いません。なぜ距離が開くのかを、お互いが考察する機会になるからです。患者・家族には医療者に意見を言う権利があるとともに、患者・家族の責務を果たす義務があります。

いかなる言動や振る舞いが、すべて許されるわけではありません。私たちは患者・家族を冷たくあしらうのではありません。「対等な関係でいましょう」と伝えるのです。

度が過ぎたクレームは犯罪である

また、度が過ぎたクレームは威力業務妨害罪に該当することを覚えておいてください。威力業務妨害罪とは「威力を用いて、他人の業務を妨害するなどの行為」に対する罪です。そう、犯罪です。病院・施設内であろうが、犯罪は許されません。これに該当するような振る舞いは決して黙認せず、警察に通報します。

このように医療現場で悪質なクレームが寄せられた際は、現場のスタッフ単独で対応しないようにしましょう。もちろん管理職が直接対応することが必要ですが、多職種が正しく情報を共有し協働して対応します。そして一部署だけではなく、組織として統一した方針で毅然と対応することです。

悪質なクレームは、断じて許容できない態度を表明しましょう。

対等な関係を目指せるか

治療・療養が円滑に進むためには、看護師を含む医療者と患者・家族の協働が不可欠です。

どちらかが上で、どちらかが下ではないのです。主従関係ではないことを医療者、患者・家族双方が理解し行動しなければなりません。それゆえ、看護師をはじめとする医療者は対等であることを常に意識してください。

日本では未だ、医師を先生と呼ぶ文化が根強くあります。それに倣ってか、コメディカルのなかには患者・家族に自らを先生と呼ばせる人たちも少なくありません。私たち看護師も、こうした文化に大きく染まっていることは知っておく必要があります。

患者・家族に「先生」と呼ばせることの異常性、意識したことはあるでしょうか。

医療が生命に深く関わる仕事である以上、医療者は強い立場になりやすいのです。こうした背景を鑑みると、医療者が権力者になりやすいことを認めるのに違和感はありません。これらは、理不尽なクレーマーを生む一因かもしれないと私は考えています。

おわりに

クレームの持つ意味を、いろいろな立場と視点で考えてきました。クレームが寄せられたことは変えようのない事実です。確かに愉快ではありません。ただ、その現実に目をそらし相手や自分を攻撃することでは何も変わりません。たとえ困難な状況だとしてもクレームの背景を想像し、自分には何ができるのか考え、行動すれば何かが変わるかもしれません。少なくとも、無力感を持ち続けるより健全に思います。

もし次にクレーム対応をする際には、思い返していただけると嬉しいです。

あなたはどう考えますか。

この記事に登場する人物・事例・団体などはすべて架空のものです。筆者の所属施設・関連施設とは一切の関係はありません。プライバシーに配慮して、実際の事例をもとに内容を構成したものを掲載しています。

ABOUT ME
小林 雄一
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師「看護師失格?」著者 看護師の育成に取り組むと同時に、看護師の対人関係能力向上に貢献するため、面談・セミナー・執筆活動を行っています。