脳卒中が原因で生じる症状はたくさんあります。その多様さゆえに、看護師さんからは「複雑でよくわからない」という声が聞かれます。
そこで、この記事では脳卒中症状をわかりやすく解説します。また、脳卒中症状を理解するために必要な解剖整理をできるだけシンプルに説明します。
目の前の患者さんの症状がなぜ起こり何を観察すればよいか、理解の手助けになれば嬉しいです。
今回考えるのは「麻痺」です。
錐体路とは
脳卒中による典型的な運動障害は、錐体路障害による片麻痺です。脳卒中といえば、片麻痺です。脳卒中・脳神経看護を勉強していると必ず出てくるこの錐体路、一体何なのでしょう。
錐体路とは、四肢の随意運動刺激を伝達する神経の道です。
四肢の運動刺激は、前頭葉運動野に発し、内包を経由し大脳脚を通り、延髄に至り錐体交差して脊髄前角細胞に達します。これを(皮質脊髄路)といいます。
一方、顔面の表情筋などの運動刺激は橋で交差して反対側の顔面神経核に達します。これを(皮質延髄路)といいます。一般的には、先述の皮質脊髄路を錐体路といいます。
以上が一般的な説明なのですが、漢字ばかりで嫌になります。そこで、同じ説明をイラストで見ていきましょう。
上肢の運動
左上肢の運動を例に、錐体路を示します。
右前頭葉の運動野が赤い〇です。ここで発した運動刺激が内包後脚を通り、延髄で反対側に移ります(錐体交差)。そして、上肢に届いて運動が起こります。左上肢の運動は、右の大脳が指令を出していますね。
イラストの赤い線が錐体路です。
下肢の運動
続いて左下肢です。
右前頭葉の運動野で発した運動刺激(緑の〇)が、内包後脚を通って延髄で反対側に移ります。そして、下肢に届いて運動が起こります。上肢と下肢、運動野の場所が少し違いますね。
イラストの緑の線が錐体路です。
顔面の運動
左の顔面の運動です。
右前頭葉の運動野を黄色の〇で示します。ここで発した運動刺激が内包後脚を通るまでは上肢・下肢と同様ですが、顔面は橋で反対側に移ります。そして、顔面に届いて運動が起こります。
黄色の線が神経の道です。
この顔面の運動は厳密には錐体路とは呼びませんが、半身の随意刺激を伝達する神経路という部分では考え方は同じです。
片麻痺がなぜおこるか
脳卒中と言えば片麻痺です。色々な麻痺があるなか、なぜほとんどの脳卒中患者さんは片麻痺なのか不思議に思いませんか。この疑問を紐解いていきましょう。
運動神経の道を上肢・下肢・顔面で表しました。上肢が赤・下肢が緑・顔面が黄です。大脳(前頭葉)では、それぞれ離れた位置に支配領域があります。
これらが下降するにしたがって、一気に束になっていることがわかります。この束になる部分を内包後脚といいます。束になった運動神経の道は脳幹まで下降し、橋・延髄で対側に移ります。そして顔面・上肢・下肢に到達していることがわかります。
この経路のうち、赤丸で示した部分があります。運動神経が束になる、内包後脚付近です。
この赤丸付近は脳卒中が大変良く起こる部位です。ちょうど運動神経が束になった部分で、脳卒中は起こるのです。ここで脳卒中が起きると、上肢・下肢・顔面いずれの運動神経の道も途切れることがわかります。
また、ここで運動神経の道が途切れると、障害側の脳と反対側が片麻痺になることが理解いただけると思います。
この解剖図に脳動脈の走行を重ねてみます。さきほどの赤丸部分の周囲に、脳動脈が密集しています。このイラストでは、左中大脳動脈の穿通枝付近になります。脳梗塞・脳出血・くも膜下出血いずれもたいへん起きやすい場所です。
人間の進化の過程で、脳卒中が頻発する部位に運動神経の道が通ってしまったのです。脳卒中で片麻痺になることは、残念ながら避けられない運命なのですね。
麻痺の種類
ここまで脳卒中の麻痺には片麻痺が多いこと、その理由をみてきました。最も多い麻痺は片麻痺ですが、時にそれ以外の麻痺が生じることもあります。
脳卒中以外で生じる麻痺も含め、どんな種類があるのかを知っておきましょう。
交代性片麻痺
麻痺の種類の一つに、交代性片麻痺があります。顔面と上下肢の麻痺が逆になる状態です。これは脳卒中で起こる麻痺です。
先ほど、上肢・下肢・顔面は運動神経の道が交差する位置が異なると伝えました。この違いで、脳幹(中脳~橋)の限られた一部で障害が起こった場合、交代性片麻痺を起こすことがあります。
たいへん興味深い症状です。これを見たら脳幹の障害を疑います。
単麻痺
四肢のうち、一肢のみ起こる麻痺を単麻痺と言います。
運動神経(錐体路)が束になる前に大脳の表層部分(運動野)で障害されると単麻痺がおこります。脳卒中で頻度は少ないものの、あり得ます。脳梗塞であれば、前大脳動脈の梗塞が考えられます。
また脳卒中以外の脳疾患では、上矢状静脈洞血栓症(頭蓋内静脈系の閉塞)や脳腫瘍などで起こりえます。
対麻痺
両側肢(主に下肢)に同時に起こる麻痺が対麻痺です。脳卒中では考えにくいです。これは脊髄の外傷や腫瘍が原因となることが多いです。
四肢麻痺
四肢麻痺です。これも原因は脊髄損傷が多いです。
脳神経領域では、橋出血などの脳幹の大きな病変で起こります。また、大脳の脳卒中が左右で2回以上起こっても生じますが、頻度は低いです。
左右の錐体路がそれぞれ障害されると、理論的には四肢麻痺となります。
麻痺の特徴
中枢性麻痺と末梢性麻痺の特徴を一覧にしました。
脳卒中による麻痺は中枢性麻痺です。中枢性麻痺では筋緊張が高まり痙性麻痺になりやすいこと、麻痺と同じ側の感覚障害を生じやすいことが特徴です。
これらは脳卒中のリハビリ・看護のポイントとなるので、覚えておくと良いですね。
ウェルニッケーマン 姿位
脳卒中による麻痺は痙性麻痺が特徴です。
痙性麻痺、つまりこわばっていく麻痺です。麻痺放置すると痙性麻痺から拘縮へと進行します。そして、上肢屈曲・下肢伸展の姿位になっていきます。
するとイラストに示したような特徴的な姿位になります。これをウェルニッケマン姿位といいます。上肢屈曲・下肢伸展の姿位です。
下肢伸展の結果、麻痺側の下肢が相対的に長くなるため、前方への振出歩行が困難になります。こうして体幹の中心から外側に下肢を振り出して歩く、ぶん回し歩行になります。
ウェルニッケ-マン姿位では、日常生活動作(ADL)が発症前と同じにはできなくなります。
早期からの適切なリハビリテーションを行い、ウェルニッケ-マン姿位を避けるような介入が望ましいと言えます。
ウェルニッケ-マン 姿位
中枢性麻痺(痙性麻痺)による特徴的な姿位
- 上肢屈曲
- 下肢伸展
- ぶん回し歩行
まとめ
脳卒中の症状と観察のポイントのうち、麻痺の種類と特徴をみてきました。
- 脳卒中による麻痺は錐体路障害による片麻痺が多い
- 脳卒中による麻痺は痙性麻痺になりやすい
- ウェルニッケ-マン姿位を回避できるよう、早期から適切なリハビリテーションを行う
本記事の情報が、脳神経ナースのお役に立てば嬉しいです。