脳卒中でなぜ人は死ぬのか、考えたことはありますか?
脳卒中で人が死ぬ前には、原則頭蓋内圧亢進症が起こります。重症脳卒中の場合、頭蓋内圧亢進症は脳ヘルニアに進行し、いずれ脳幹機能が障害されます。こうして心肺停止が起こります。
ただ、過度に心配する必要はありません。頭蓋内圧亢進・脳ヘルニアを起こす経過で、脳神経疾患特有の症状が現れるのです。このため、バイタルサイン変化と脳神経症状の観察が重要なのです。
私たち看護師に何ができるのか、一緒に考えていきましょう。
頭蓋内圧亢進によるバイタルサインの変化
脳ヘルニアによるバイタルサインの変化を一覧にしています。意識・瞳孔・バイタルサインです。左が正常で右に行くにしたがって重症・死亡に近づきます。
つまり、脳ヘルニアのごく早期であれば回復を望めます。頭蓋内圧亢進症の状態で発見・対処すれば、生命および良い機能予後を期待できます。
病院の専門職の中で最も患者のそばにいる、看護師の手にかかっていると言えます。
こう見ると、頭蓋内圧亢進症にとても怖いイメージをもつかもしれません。ただ、これらは突然起こるのではありません。いずれも時間経過とともに変化していきます。数分間であっという間に進むわけではありません。少なくとも、対応できる時間はある程度残されています。
大切なバイタルサインと脳神経症状の変化、ひとつずつ詳しく見ていきましょう。
意識レベル
意識とは何か
意識という言葉、日常生活でもよく使われます。日々のニュースでも、「意識に別状はありません」とか「一時、意識不明の重体です」などと報じられますね。
意識って正しく説明できますか?改めて質問されると以外に難しいです。意識を適切に観察しアセスメントするには、正しい知識が必要です。
意識とは、意識水準(覚醒度)と認識機能(意識内容)2つの概念を含みます。平たくいうと目がさめているか、周囲を認識しているかです。意識レベル清明とは充分覚醒していて、自己と自己の置かれている環境に気付いている状態をいいます。
意識障害の意味するもの
それでは、意識障害はなぜいけないのでしょうか。意識の中枢は大脳皮質全般や上行性脳幹網様体、視床などと考えられています。いずれも人の生命維持に必須な部分ですね。
つまり意識障害があるということは、大脳全体の機能が低下しているか、脳幹(生命中枢)が機能低下しているか、どちらかです。いずれの場合も生命が危ないというサインです。
意識障害を見た場合には生命危機と捉え、緊急の対応が必要と思ってください。
脳幹網様体のはたらき
脳幹網様体という言葉がでました。これは人の脳が覚醒するメカニズムで、重要な役割をもつ部分です。次のイラストは、人の脳を横から見たイメージです。大きなしわの部分が大脳、大脳の後ろ下にある細かなしわが目立つのが小脳、そして視床・脳幹を図示しています。
人は大脳でものを考え判断しています。この大脳が正常に働いていて、意識が保たれ・覚醒するのですが、この覚醒のためには脳幹から「目を覚ませ!」という刺激が絶えず必要です。この刺激が脳幹網様体から発信されて、大脳を刺激し覚醒します。
このため大脳・脳幹いずれかの機能が低下すると、意識障害になるのですね。大脳だけでは人は覚醒できないのです。
意識障害の原因
この記事では、脳卒中による意識障害をとりあげています。一方、意識障害の原因は脳卒中意外にもたくさんあります。意識障害に適切に対処するには、その原因を究明しなければなりません。
意識障害の原因鑑別に用いられる、AIUEO Tipsを紹介します。意識障害患者を見たとき、鑑別の目安になると思います。
ただ、これは臨床での緊急度を順に示したものではありません。実際は①ABCの安定 (気道、呼吸、循環)、 ②低血糖の除外、 ③頭蓋内疾患精査などが第一に優先され、その後詳細な鑑別をするのが自然です。
頭蓋内圧亢進症における意識レベル
頭蓋内圧亢進症が進行すると、大脳機能と上行性脳幹網様体の機能が低下および停止します。これにより意識レベルの低下が生じます。
頭蓋内圧亢進症による意識レベルの低下は、生命危機に直結するものです。早期発見および緊急の対応が必要なことを念頭に置き、重症脳卒中患者さんを観察しましょう。
瞳孔・対光反射
瞳孔症状
脳疾患患者さんの観察項目に瞳孔症状があり、対光反射・瞳孔経の確認は看護師によく知られています。
瞳孔症状とは、おもに対光反射の消失とそれに伴う瞳孔不同を指します。これらが良くないのは感覚的にはわかります。ただ、「なぜ対光反射の消失と瞳孔不同はよくないの?」と聞かれると少し悩まれるのではないでしょうか。
そこで今回は、瞳孔症状の意味を考えてみます。
対光反射のメカニズム
まず正常な対光反射のメカニズムを知りましょう。
一側の眼球から光刺激をいれます。眼球網膜視細胞⇒視神経⇒外側膝状体⇒中脳動眼神経核⇒動眼神経(副交感神経線維)⇒瞳孔 そして対光反射が起こります。対光反射をつかさどっている脳神経は、脳神経第Ⅲ番 動眼神経(と一緒に走行している副交感神経線維)です。
片側に光刺激を加えても、両側の瞳孔の対光反射が起こります。直接反射と間接反射をみることで、障害されている部位が推測できます。
瞳孔不同の原因
イラストの左側が眼球で、右側が脳幹です。黄色い〇で示した部分に脳幹の動眼神経核がふくまれます。赤い線が動眼神経です。眼球と脳幹が動眼神経で繋がっています。
動眼神経核が対光反射の指令を出し、動眼神経が眼球にその指令を伝え、対光反射が起こります。この経路のどこかで動眼神経が痛むと、対光反射が消失します。これを動眼神経麻痺と呼びます。図に〇で示した3か所でおもに動眼神経麻痺がおこり、いずれも脳疾患の悪化を示します。
尚、重症脳卒中による頭蓋内圧亢進・脳ヘルニアに伴う瞳孔不同は、脳幹周囲の部分(黄色〇)が原因で起こります。
瞳孔症状は死のサイン
頭蓋内圧亢進・脳ヘルニアで、なぜ対光反射消失・瞳孔不同が起こるのでしょうか。
脳出血・脳浮腫などで頭蓋内圧が亢進すれば、いずれ脳ヘルニアが起こります。この脳ヘルニアによって脳がはみ出した先に動眼神経があります。はみ出した脳に圧迫されて動眼神経が痛み、対光反射消失・瞳孔不同が起こります。
さらに脳ヘルニアが進行すると、その先には脳幹があります。脳幹は呼吸・循環の中枢ですので、ここが障害されて人は死にます。加えて、脳ヘルニアにより脳動脈が変位・閉塞し、同時に広範囲の脳虚血も起こります。
だから、瞳孔不同をみたら生命の危機を考え、治療に繋げなければならないのですね。
瞳孔経の観察方法
- 自然光の下、瞳孔の大きさを確認
- スポットライトなどの強い光で最大収縮させ、対光反射を確認
- 正常は2~4mm(1mm以上の左右差は瞳孔不同)
瞳孔症状はいつ報告するか
- 重症脳卒中患者さんに対光反射消失・瞳孔不同がおこったら、即DrCallです
- 重症脳卒中以外の瞳孔不同であれば、DrCallは急ぎません
- 瞳孔不同の原因を知り、「急ぐのか・急がないのか」を判断します
血圧・脈拍
脳血流自動調節能
脳は心拍出量の20%を常に必要とする重要臓器であり、ほんの少しの血流低下でも重大な影響があります。
このため、人体にはある程度の血圧変化にも脳血流量を低下させないシステムが備わっています。平均血圧が50~160mmHgの範囲内であれば、基本的に脳血流は変化しません。これを脳血流自動調節能(オートレギュレーション)と言います。
ところが、頭蓋内圧亢進症が起こり脳障害を来すと脳血流自動調節能が破綻します。つまり、血圧の変動によって脳血流が増減するという恐ろしい状態になります。
血圧が上昇すれば脳血流が増え、頭蓋内圧は一層亢進します。反対に血圧が下降すれば脳血流が減少し脳虚血になり、脳へ酸素とブドウ糖が供給されなくなります。
クッシング現象
急性頭蓋内圧亢進を示す症状に、クッシング現象があります。
脳血流を保つために血圧が上昇し、収縮期血圧と拡張期血圧の差(脈圧)が増大します。これには徐脈を伴うことが多いです。クッシング現象には緩徐深呼吸を含めることもあります。
クッシング現象は生命危機徴候である一方、高い脳圧に対抗して脳血流を増加させようとする人体の代償機構でもあります。
呼吸
頭蓋内圧亢進に伴う異常呼吸と、それに伴う症状を一覧にします。
頭蓋内圧亢進・脳ヘルニアに伴い、図の上から下に向かい脳が障害されていきます。早期に発見し対処出来るほど予後は良くなる可能性が高く、間脳期(チェーンストークス呼吸)までに発見し対処することが重要です。
体温
重症脳卒中により視床下部の体温調節中枢が障害されると、中枢性過高熱を来すことがあります。
ここでの問題は、体温上昇により代謝が亢進することです。体温が1℃上昇すれば、約13%代謝が亢進します。代謝亢進により血液循環が促進され、血管が拡張することで脳圧は亢進します。
加えて、酸素不足による細胞障害性浮腫からも脳圧亢進が進むという悪い連鎖が考えられます。異常な高体温に対してできることは少ないのですが、脳卒中急性期の高体温には適切な解熱薬投与が必要です。
まとめ
- 頭蓋内圧亢進症早期に発見・対処すれば、生命および良い機能予後が期待できる
- 頭蓋内圧亢進は時間経過とともに進行するが、時間はある程度残されている
- 意識・瞳孔・バイタルサインに集中し、確実に観察する
脳ヘルニアによる意識・瞳孔・バイタルサインの変化です。左が正常で右に行くにしたがって重症・死亡に近づきます。
頭蓋内圧亢進症によるバイタルサインの変化を考えてきました。本記事が、脳神経ナースのお役に立てば嬉しいです。