脳梗塞とは
脳卒中とは死亡する人が多く・後遺症が残る疾患です。
脳卒中のうち最も多いのが脳梗塞です。脳梗塞とは、脳の血管が狭くなったり詰まったりした結果、その先に血液が流れなくなるため、脳の細胞や組織が壊死してしまうことです。
脳血栓と脳塞栓に分類され、発症原因によりアテローム血栓性脳梗塞・心原性脳塞栓症・ラクナ梗塞に分けられます。
この記事では、脳梗塞の急性期治療のうち血栓溶解療法を説明します。脳梗塞治療の概要はこちらをご覧下さい。
血栓溶解療法
経静脈的血栓溶解療法、通称rt-PAです。詰まった血栓をターゲットに、rt-PA(組織プラスミノーゲンアクチベータ)という薬剤を点滴・静脈注射します。すると血栓が溶けて、血流が再開通するという具合です。
薬剤名をアルテプラーゼと言います。
鹿児島医療センターHP 2019.6.15 より転載
経静脈的血栓溶解療法(rt-PA)の適応
経静脈的血栓溶解療法(rt-PA)は、時に絶大な治療効果を示します。完全に元通りになることもあります。その一方で、重大合併症のリスクと隣り合わせな治療でもあります。主な合併症は、症候性頭蓋内出血・易出血性です。
出血性合併症観察の要点を示します。
- rt-PA投与による易出血性
- 処置による侵襲は時間を遅らせる
- 内出血の有無・悪化確認
- 症候性頭蓋内出血 (出血性梗塞)
- 3~10倍増加
- 5~20%に出現
- 発症から1~3日目・2~4週目にピーク
これらを回避するため、経静脈的血栓溶解療法(rt-PA)には適応基準・除外基準が定められており、厳格なルールに基づいた観察・評価が求められます。
以下に適正治療指針を紹介します。
経静脈的血栓溶解療法(rt-PA)適応
静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版 2019 年 3 月 日本脳卒中学会 脳卒中医療向上・社会保険委員会 静注血栓溶解療法指針改訂部会
- 適応
- 発症後4.5時間以内の虚血性脳血管障害
- 適応外項目あり
- 発症時刻
- 症状出現が明らかな時刻
- 無症状であることが最後に確認された時刻
- 発症時刻が不明な時でも、頭部 MRI 拡散強調画像の虚血性変化が FLAIR 画像で明瞭でない場合 には発症 4.5時間以内の可能性が高い。このような症例に静注血栓溶解療法を行うことを、考慮しても良い【C1,中】 2019.3
経静脈的血栓溶解療法(rt-PA) 投与方法
続いて、経静脈的血栓溶解療法(rt-PA)の投与方法を示します。
アルテプラーゼ0.6mg/kgの10%を急速静注して、のこりを1時間で点滴します。
治療後24時間は厳重な血圧管理を行い、他の抗血栓療法が出来なくなります。また、抗凝固剤内服後4時間以内の場合は適応外です。
ただしダビガトラン(プラザキサ)服用患者においては、適応外とみなされた場合もイダルシズマブ(ダビガトラン特異的中和剤)を用いた後に静注血栓溶解療法を行うことを考慮しても良い【2019年3月 追加情報あり】と、されています。
経静脈的血栓溶解療法(rt-PA) 投与方法
静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版 2019 年 3 月 日本脳卒中学会 脳卒中医療向上・社会保険委員会 静注血栓溶解療法指針改訂部会
- アルテプラーゼ0.6mg/kgの10%を急速静注、残りを1時間で静注
- 治療開始後24時間は、厳重な血圧管理と抗血栓療法の制限あり
- 抗凝固剤内服後4時間以内の場合、適応外
- ダビガトラン(プラザキサ)のみ、抗凝固中和の余地あり 2019.3
NIHSSによる重症度評価
経静脈的血栓溶解療法(rt-PA)を実施する場合、National Institutes of Health Stroke Scale (NIHSS)を用いた客観的な重症度評価を実施する必要があります。
これは脳卒中の神経学的重症度の客観的スケールです。15項目で構成され、点数が高いほど重症です。0~4点が軽症、5~22点が中等症、そして23点~40点が重症と言われます。
血栓溶解療法後の神経学的所見観察と血圧管理の間隔を示します。これを見ると、投与後24時間は合併症が起こりやすいことが分かります。
経静脈的血栓溶解療法(rt-PA)後 観察
- 神経学的所見 :NIHSSを用い観察する
- 投与開始~1時間(t-PA投与中) :15分ごと
- 1~7時間 :30分ごと
- 7~24時間 :1時間ごと
- 血圧管理 :血圧は180/105mmHg以下に保つ
- 投与開始~2時間 :15分ごと
- 2~8時間 :30分ごと
- 8~24時間 :1時間ごと
血栓溶解療法チェックリストです。
ここまでに示した、適正使用指針やこのチェックリストはWEB上で無料配布されています。ぜひ見てみて下さい。
チェックリストの項目、神経徴候の判定にNIHSSがあります。
脳卒中学会HPより転載 https://www.jsts.gr.jp/img/rt-PA03.pdf
NIHSS評価表
NIHSS評価 基本ルール
NIHSS評価の基本的なルールを示します。
- リストの順に施行
- 施行直後にすぐ記録(紙で評価してまとめて電子カルテへ)
- 評点を変更してはならない
- 各検査の指示に従う
- 推測を反映しない
- 患者を誘導しない
- 評価できなかった場合、理由を記載
NIHSSのメリット
ここまで取り上げてきたNIHSS、初めて見た方は「複雑で難しい」という印象を持たれたかもしれません。rt-PAを実施するにあたって避けては通れないので、少しづつ身に着けていけば良いと思います。
尚、NIHSSを行うメリットは大いにあります。それは、看
護師に脳神経学的所見の評価が身につく・脳神経フィジカルアセスメントの能力向上が望める・医療者同士の共通言語となる(報告が楽になる)などです。
これらのメリットは、異常の早期発見・治療につながります。NIHSS、確かに全く経験してないと難しく感じるでしょうが、仲間同士で「これであってる?」とお互い相談し合いながら実施することが上達への近道だと思います。
血栓溶解療法(rt-PA) まとめ
血栓溶解療法(rt-PA)
- 重大合併症のリスクと隣り合わせ
- 合併症とは、症候性頭蓋内出血・易出血性
- 経静脈的血栓溶解療法(rt-PA)には適応基準・除外基準あり
- 厳格なルールに基づいた観察・評価が必要
- NIHSS用いた客観的な重症度評価を実施
NIHSSをしっかり身に着けたいなら、ISLSという教育コース受講がおすすめです。
もちろん身近に脳外科・脳神経内科医師がいれば聞いても良いし、脳卒中リハビリテーション看護認定看護師・脳卒中看護認定看護師がいればきっと教えてくれます。脳卒中の認定看護師に限らず、救急看護・集中ケア認定看護師もNIHSSができるひとは沢山おられます。
また、NIHSSはDVDやYoutubeなどで自己学習もできます。低コストで習得できるので、一度検討ください。
本サイトの情報が、より良いケアの手助けになれば嬉しいです。