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対人関係

こんなときどうする?
【仕事が終わらない】

本記事は対人関係に悩みを抱える人が現状を見つめなおし、対人関係の課題に取り組むきっかけをつかむことを目的にお送りしています。

現場の看護師から受ける相談や、私が経験した事例をもとに一緒に考えていきます。

今回のテーマは、「仕事が終わらない」です。

看護師の仕事は忙しい

看護師の仕事は多忙です。忙しくない人など、居ないと言っても良いかもしれません。仕事が時間通りに終わらないこともあるでしょう。こうして困っている方が多いからか、優先順位のつけ方や多重課題への対応法など、様々な看護師向けのセミナーや書籍があります。

実際に「仕事が終わらない」方の様子を見たり相談を聞いたりすると、中には仕事の進め方や時間の使い方が上手くない場合はあります。それでも仕事に慣れ、方法を身に着けていけば次第に時間の使い方は上手くなり、その結果自然に超過勤務は減っていくように思います。

ところがいくら経験を積んでも、仕事に慣れても「仕事が終わらない」人が存在します。職場で他のスタッフが皆帰宅しても、しばしば一人だけ残って仕事をします。とても多忙な日に超過勤務になるのは自然ですが、どんなに落ち着いた日であっても、受け持ち患者数が少なくても一人「仕事が終わらない」のです。

こうなると周囲の仲間たちは仕事を引き受け、手伝います。また、心配になり声を掛けます。仕事が終わるまで職場に残る人も現れます。こうして何とか一日の仕事を終え、仲間たちと帰路につきます。こうした職場は協働や助け合いが成立しており、素晴らしいと言えます。

いつも仕事が終わらないのはなぜか

ただ、それで終わらせてはいけないようにも思います。気になるポイントは「多忙でもそうでなくても」仕事が終わらないことです。通常、仕事の量・内容に応じて仕事が終わる時間は変化します。もちろん多忙な日に終わらないのは理解できますが、忙しくない日でも仕事が終わらないのは不自然ですね。私は、これには何か目的があると考えます。

おそらく、仕事が早く終わっては困るのです。相談者に理由を聞くと、経済的な理由を持ち出す人がいます。超過勤務での収入が欲しいのだそうです。私はこの考え方に賛成はできませんが、理解はできます。人に比べて儲かった気がするのでしょう。

ただ、残念ながら超過勤務での収入は微々たるものです。給料が割り増しになると考える気持ちもわかりますが、少し冷静になってほしいです。超過勤務は、自分の大切な時間を削っていることに気づく必要があります。改めて言うまでもなく、人生は有限です。時間は生命そのものと言ってよいでしょう。

気持ちと時間をすり減らし、健康を害してまで目の前のわずかなお金を得る必要があるのか、一度考える余地があります。

納得できない方は、例えば自身の月給を一度時給に換算してみてください。働く時間が長ければ、時給は下がりますよね。自分の時給を上げる、つまり仕事の単価が最も高いのは時間通り仕事を終えることです。

このように経済的な側面を重視するのなら、定時で仕事を終わらせるのが最も効率が良いことは明らかです。

仕事が終わらない人は依存的

続いて、「仕事が終わらない人」を対人関係の視点でも考察します。

よくあるのは「同僚に嫌われたくない」、というものです。「自分だけ先に帰ったら、嫌われる。手伝わなければ仲間外れにされる」などです。気持ちはわかりますが、そもそも自分の仕事が終わらないのです。人を手伝う時間があるのなら、まずは自身に与えられた仕事を終えなければなりません。

他者の目ばかりを気にするあまり、自分の仕事も他者の仕事も区別がつかなくなるのです。自分の仕事を後回しにして他人の仕事を手伝えば、仕事をやった気にはなれます。その結果、どちらも中途半端で不確実、さらに効率が悪い仕事になるのです。

社会人は自立しなければなりません。尚、自立とは自分のことが自分ででき、できないことは他者に依頼できることです。

仕事が終わらない人は依存的なのです。

家に帰りたくない

別な視点で指摘します。

仕事が終わらない人は、おそらく職場にいなければならない理由があるのでしょう。自身のプライベートの時間を、短くする必要があるとも言えます。こう書くときっと「とんでもない!そんな人はいない!」と反論されます。でも、本当にそう言い切れるでしょうか。

自身のプライベート時間は、家族があれば家族との時間でもあります。家族との時間は生活です。家事もあれば、パートナーと話す必要もあるでしょう。子育てをしていれば、子どもの世話もあります。親・きょうだいとの時間を過ごすこともあるでしょう。友人関係などもプライベートの時間ですね。

自覚はしていないでしょうが、いつも仕事が終わらない人はこれらの人との時間を過ごしたくないのです。

共に過ごせば、対人関係の距離は近くなります。当然、摩擦や軋轢が生まれます。これらに向き合いたくないのです。仕事だけを一生懸命していれば、「立派な看護師さん」で居られます。「人を救うため、患者さんのため」と言えば、周囲の人は反論しにくいでしょう。

これを悪用し家族・友人、そして何より自分自身と向き合うことを避けているのです。

同僚は家族ではない

さらに対人関係の視点で掘り下げます。家族・友人の関係を、職場の人に求めているのです。

仕事は「成果を出す」という共通の目的があります。そのため、職場で困れば助けてもらえます。時間がかかれば、援助してもらえます。優しい声掛けもしてもらえるでしょう。過干渉気味に介入し、姉御肌・兄貴肌で世話をしてくれる先輩や上司もいるかもしれません。その一方、仕事の遅さを批判したり指導したりする人も現れます。

批判は不愉快なものですが、いつも仕事が終わらない人は恐らく快感を覚えているでしょう。どんな形であれ、対人関係が成立するからです。

この状態なら、常にだれかが相手をしてくれます。仕事が終わらないことで、他者の関心を引けることを知っているのです。ただ、それは依存的な関係です。

これからどうするか

「仕事が終わらない」を、様々な視点で考えてきました。もし自身にこれらの傾向が当てはまると感じたなら、一度冷静になってみてください。そして、これからどうするかを考えてみてほしいです。何より、時間を大切にしましょう。「仕事を終える」のです。

例え、すべての仕事が完遂できていなくても良いのです。「帰る」と決めたら、帰るのです。もちろん、仕事が終わらないことによるあらゆる責任は自分で負わなければなりません。終わらなかった仕事は後日自分で処理するか、仲間が請け負ってくれるかになるでしょう。もしかしたら、誰かに迷惑をかけるかもしれません。

その責任を負うのです。

ただあまり心配しなくとも、思考を転換するだけで多くの方は仕事が終わるようになります。さらに、その正確性は高くなります。それはなぜか。

依存的だった働き方が、自立に近づくからです。人のせいにしなくなるからです。自分でできることは自分で取り組み、できないことは他者に助けを求めることができるようになります。そして、自分も他者を助けることができます。

信頼関係が築けた仲間と仕事をすれば、正確に効率の良い仕事ができると考えます。

おわりに

ここまでお話ししてきた内容にドキッとした方、反感を覚えた方、見るのも嫌になった方、何も感じない方、いろいろあると思います。ただ「いつも仕事が終わらない」人、そして「どこか生きづらいと感じる」人は、一度仕事の在り方を見つめなおしてみませんか。

私は「仕事が終わらない」人は、能力が低い人だとは思えません。対人関係と健康、そして生命を真剣に考えていない人だと捉えます。人生から逃げている人です。

変わるのは上司や同僚、部下ではありません。もちろん、家族や友人でもありません。自分自身です。自分の働き方、生き方は自分で決めていきませんか。

あなたはどう考えますか。

この記事に登場する人物・事例・団体などはすべて架空のものです。筆者の所属施設・関連施設とは一切の関係はありません。プライバシーに配慮して、実際の事例をもとに内容を構成したものを掲載しています。

ABOUT ME
小林 雄一
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師「看護師失格?」著者 看護師の育成に取り組むと同時に、看護師の対人関係能力向上に貢献するため、面談・セミナー・執筆活動を行っています。