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【理不尽な叱責をうけた】

本記事は対人関係に悩みを抱える人が現状を見つめなおし、対人関係の課題に取り組むきっかけをつかむことを目的にお送りしています。

現場の看護師から受ける相談や、私が経験した事例をもとに一緒に考えていきます。

今回のテーマは、「理不尽な叱責をうけた」です。

新しいプロジェクト

私はあるプロジェクトメンバーを任命され、上司Aを中心としたメンバーが結成されました。組織・チームともに初めての試みであり簡単な仕事ではありませんでしたが、上司Aと私たちは協働し何とかプロジェクトは形になっていきました。

その経過でマニュアルを改訂する必要があり、私は上司Aよりその役割を一任されました。スタッフが仕事しやすくなり、ひいては顧客に利益のあるマニュアルになるよう検討を重ねました。

マニュアル改訂は順調に進みました。管理者会議で採択の可否が検討されたのち、無事採用されることになりました。

私は安心しました。

青天の霹靂

その日の夕方、突然上司Bより電話がかかりました。怒鳴ってはいませんが、相当の剣幕です。

「あれはどういうつもり?あんなに完成度の低い、意味のないマニュアルは見たことがない。配慮も足りないしどういうこと!」

心中穏やかでないことはすぐわかりました。普段は穏やかなことが多い上司Bですから、相当腹に据えかねたことがあるのでしょう。

私は「何かご心外なことがありましたか?ご意向に沿えていないことや、指摘があればよかったらご助言くださいませんか?」と伝えました。

これに対し上司Bは、ますます語気を強めます。

「この文章はどういうこと?ここは?この部分は?前のマニュアルはちゃんと読んだの?」私の話を聞く余裕はなさそうです。

「私はなにかまずいことをしたのですね?今からお話を聞きたいのですが、直接伺ってもよろしいですか?」と提案しました。

上司Bは「いや、わからないのならもういいです。もういいです。こなくていいです。話したくない。私は忙しいんで!」と言い放ち、一方的に電話は切断されました。

理不尽な叱責

まさに理不尽な叱責をうけた状態です。こんなとき愉快な気持ちにはなれませんが、ここで闘ってはいけないと私は考えます。

私はすぐに上司Bのもとに向かいました。「よかったらお話きかせてください」と声をかけ、2人で話せる面談室に案内しました。上司Bは目を合わさず怒りを隠そうとはしませんが、2人で話すことは拒否していません。

対話の合意は得られたのです。

「私の配慮が足りない部分があれば、ご指摘頂けると助かります。お手数ですが、お願いできませんか?」と問うと、上司Bの表情は幾分か穏やかになったように見えました。

上司Bからは、私たちが作成したマニュアルに対しての修正点が事細かに示されました。ただ、冷静に見ると修正というよりは項目の順番だけの指摘のようです。上司Bは同マニュアルの改訂前を示し、言い回しが変わっていることがおかしいと話します。

記載項目の順番や言い回し程度は、第三者からみれば大変些末なことのように思えます。ただ今は、上司Bにとって譲れない大切な価値があることは理解できました。

そこで、「分かりました。ご指摘ありがとうございます。仰る通り修正させて頂きます」伝え、対話を終えようとしました。

対話の始まり

上司Bの先ほどまでの怒りは、既に影を潜めていました。私が対話を終えようとすると、まだ話足りない様子で「ちょっといい?」と上司は言います。

続けて、「このマニュアルは、以前担当したスタッフがみんなで協力して作ったものなの。改定が必要とは言え、こんなに突然変えるのは良くない。関わった皆がどんな気持ちになるか、考えたほうがいいよ。嫌な気持ちになるよ」と言います。

さらに、「このマニュアル、上司Aのチームで対応しているのはずっと見ていたけど、これまでの経緯を何も知らないな、大丈夫かな?って見ていたよ」と付け加えます。

上司Bの言葉に私は違和感を覚えましたが、口を挟まず聞きました。上司Bの言動の目的を知りたかったからです。しばらく語り続けた上司Bの話が途切れました。どうやら一定の満足感は得たようです。

私は、「早々から危うさを感じておられ、心配してくださっていたのですね」と伝えました。上司Bは、「そう、あなたたちのことを思って言ってあげてるの」と言います。

私は「ありがとうございます。誤解が解けたようで安心しました。私からもひとつだけ聞かせてもらっていいですか?」と問いました。

上司Bは「もちろん。何でも聞いて」と言います。

私は「なぜ問題に気付いた時、常にデスクが隣の上司Aに助言なさらなかったのですか?」と質問しました。

これに対し、戸惑った様子で「えっ?・・・それは、それはAさんに言って波風を立てたくないからよ」と上司Bは答えます。

指摘は闘いではない

「私を叱責はできるのに・・・ですか。あなたが仰るように、私たちのミスで誰かが傷ついたり、迷惑をかけたのなら謝罪が必要と思います。そして可能なら訂正と再発予防を取るのが得策だと思いますが、如何ですか?上司Aにも、同様に伝える必要がありますよね」

「いや、叱責って・・・怒ったわけじゃないのよ。もういいのよ。余計なことはしなくて。事情はわかったから。Aさんには言わないでいいからね!」

上司Bは何度も念押しし、説得します。私は、上司Aと上司Bの関係は対等ではないのだろうと感じました。

私は「そうですか。Bさんのお考えはよくわかりました。失礼します」と告げ、対話は終えました。

動揺

その日、なぜか上司Bから何度も電話がかかってきす。

対応すると、いずれも普段はメールですませているような日常連絡です。どこか私の機嫌を伺っているような印象を受けました。何か思うところがあるのだろうと察しました。

部下を強く叱責したのち、部下から指摘をされて感情は揺らいだことと思います。ただ、その感情に決着をつけるのは、自分自身であり他人ではありません。まして、部下にそれを癒してもらおうなどとしてはなりません。

叱責や自身の振舞いが良くないと感じたのなら、そう話さなければなりません。対話を申し込まれていないのですから、私は話す必然性はありません。

私は、上司Bからの指摘を承諾しマニュアルを修正しました。本質は何も変わっていないのですから、なんら不利益はありません。上司Bの指摘が妥当なら、これで傷つくひとが少なくなるのでしょう。

その後上司Bとは「いつもと変わらず、対等に」接しました。

事例の背景

後日、判明したことがあります。

今回問題となったマニュアルは、先に述べたように上司Aがリーダーですが、実は前任は上司Bだったのです。自身が時間をかけて作成した、思い入れのあるマニュアルを「勝手に改訂」されたことが心外だったのです。

さらに、「自分に事前に断りがなかった」ことが許せなかったのです。

この度、上司Bはプロジェクトとは直接関係ありません。上司A、そしてチームの私たちに任された仕事ですから上司Bに本来断りは必要ありません。

ただ上司Bが気分を害したのは事実のようです。仮に、事前に上司Bにひとこと声をかけていればこのような事態は避けられたでしょう。もちろんそれが妥当か否か、検討の余地があります。

叱責の目的

本事例の上司Bは果たして、「スタッフ・組織、あるいは顧客」のためを思っていたでしょうか。私にはそう見えません。人々の中には自分の課題と他者の課題を分離できない人がいます。そして、自分の存在を誇示し続けなければ、不安に押し殺されてしまう人がいます。

今回の事例を通じて感じたのは、上司Bは「自分には価値がない」と認識していることです。他者の領域にまで踏み込んで自分の権力を行使することで、自分の価値をあげようとしていると考えます。

もっと言えば、一番反論しなさそうな「私を選んで」叱責することで部下を貶めたかったのです。上司の権力を使い相手を貶めれば、相対的に自分の価値が上がったと思えるからです。

ただこれは、対人関係育成の視点で言えば適切でありません。それゆえ、私は指摘したのです。

早くからプロジェクトの危うさに気づいていたのであれば、同僚である上司Aに提案すればよかったのです。上司Aとの軋轢を避けたいのなら、複数のチームメンバーにアドバイスもできたはずです。

自分の実績を修正されるのが不愉快なら、「これは前任である私と、当時のメンバーが努力して作ったものなんです。修正するなら声をかけてくれたら嬉しいです」と言えば良いのです。

その申し出を新メンバーが受け入れるかどうかは別として、きっと「配慮」はしたでしょう。感情に任せて叱責するより、適切な振舞いだと考えます。

おわりに

上司と部下の関係を事例に、対人関係を考察してきました。上司から理不尽な叱責をうければ、愉快ではありません。ただそれでも闘ってはいけません。もし闘えば、それは権力争いです。永遠にお互いを傷つけあう関係になります。上司は自分の持つ職務上の権力で、常に部下を貶めようとします。

それより「理不尽な叱責」という行動に隠された「目的」を見極めるのです。

上司Bの目的は、自分に価値がないことから目を反らすことです。もっとわかりやすく言えば、「不安で苦しい気持ちを誰かに聞いて欲しい。癒してほしい」のです。精神的に自立できていない人は、しばしば同様の行動をとります。

ただ、この上司Bは多くの場面で人を助けています。私の力にもなってくれています。誰かの役に立っていることは間違いありません。今のままで、価値があるのです。なぜ自分自身の価値を認められないのか、向き合うことを避けているだけです。

それに気づくのは自分自身しかありませんが、まわりの誰かが背中を後押しできると良いと思うのです。

あなたはどう考えますか。

この記事に登場する人物・事例・団体などはすべて架空のものです。筆者の所属施設・関連施設とは一切の関係はありません。プライバシーに配慮して、実際の事例をもとに内容を構成したものを掲載しています。

ABOUT ME
小林 雄一
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師「看護師失格?」著者 看護師の育成に取り組むと同時に、看護師の対人関係能力向上に貢献するため、面談・セミナー・執筆活動を行っています。