高次脳機能障害を説明できますか
看護師、医療・介護・福祉に従事する方は、高次脳機能障害と一度は聞いたことがあるでしょう。看護師さんであれば教育機関で学びますし、国家試験の問題にも出題されています。
高次脳機能障害対象者の方に、臨床はもちろん病院・施設以外の地域社会でも、看護師は日常的に接しています。高次脳機能障害は脳卒中をはじめとする脳神経疾患の後遺症として一般的ですし、転落・交通外傷による脳損傷でも生じます。
「いや、私はぜんぜん会ったたこともない」と感じた人は、気づけていないかもしれません。
意外に身近な高次脳機能障害ですが、あらためて「高次脳機能障害を説明してください」と言われるとちょっと答えに困りますね。
高次脳機能障害の定義
定義
高次脳機能障害には定義があります。そのうち、よく知られたものを一つ紹介します。
【高次脳機能障害】
高次脳機能(認知)とは、知覚・記憶・学習・思考・判断などの認知過程と行為の感情(情動)を含めた精神(心理)機能を総称する。
病気(脳血管障害・脳症・脳炎など)や事故(脳外傷)によって脳が損傷されたために、認知機能に障害が起きた状態を高次脳機能障害という。
リハビリテーション心理職会HP より転載 2021.5.29
簡潔に良くまとめられている定義ですが、漢字ばかりで少しだけ難しく感じます。
確かに、看護学生さんや現場の看護師さんと話していると「高次脳機能障害よくわからない・難しい」と聞きます。
解説
本当は身近なはずの高次脳機能障害、嫌いになってもらっては困るので私はこう説明しています。
障害は、説明の必要はないですね。また脳機能は文字通り、脳の働きです。
つぎの「高次」を、みなさん敬遠されるようです。高次とはいったい何なのか。何が高いのか。
それは、運動・感覚・呼吸など人間が生きるための機能をあえて「低次(低い)」と仮定した場合、より高次(高い)という意味になります。これには、話す・聞く・考える・判断する、などがあります。
つまり、『直接、ヒトの生・死には直接は関係しないが、人間らしい生活のためには欠かせない脳機能の障害のこと』を言います。
高次脳機能障害の特徴
こうした高次脳機能障害、かなり身近なはずなのに「高次脳機能障害よくわからない・難しい」という言葉が絶えません。いったいなぜなのでしょうか。
これには、高次脳機能障害の特徴が大きく影響しています。
それは高次脳機能障害が、外見からは障害が見えにくく、周囲の人に理解され難いからです。また、一人ひとりの症状の現れ方が異なり、かつ症状が重複していること、加えて初期には本人も自分の症状を理解していないことが多いからです。
対象者本人はもちろん、周囲の人が理解しにくいのです。看護師が理解しにくいのも無理はありません。
それでも看護師は患者・対象者に関わり、ケアを提供することからは逃げられません。理解しにくい高次脳機能障害、すこしでも身近なものにしていきたいですね。
高次脳機能障害の特徴
- 外見からは障害が見えにくく、周囲の人に理解され難い
- 一人ひとりの症状の現れ方が異なり、かつ症状が重複している
- 加えて初期には本人も自分の症状を理解していないことが多い
これらは高次脳機能障害の説明ですが、認知症のケアと似ていませんか。認知機能低下という共通点があり、関わり方は全く同じだと考えます。
理解しにくいけど、要点を押さえたらよいケアがきっと出来ます。本質はシンプルです。
高次脳機能障害への向き合い方
多彩な症状
高次脳機能障害には大変多彩な症状があります。
有名なものに、半側空間失認・失認・失行・失語・記憶障害・注意障害・社会的行動障害などがあります。
テキストなどでよく目にするもの、臨床で目立つものをあげただけでもこれくらいあり、さらに細かい分類をいえばすぐに紙幅が足りなくなります。
このため、高次脳機能障害の各症状・原因などの説明は他の機会にお譲りさせて頂きます。
もちろん、一つ一つの高次脳機能障害を知っておくに越したことはありません。特にリハビリ専門職(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)であれば、詳細を知らないわけにはいきません。治療の根幹を成す職種だからです。
看護師は何を知ればよい?
ただ、看護師すべてがリハビリ専門職と同じ知識・技術をもつ必要はないと思います。そもそも持てません。基礎教育が違いますし、求められる役割が異なります。
看護師に必要な知識・技術で良いのです。看護師に必要なのは、患者・対象者と適切な対人関係を築ける知識・技術です。言い換えれば、ケア提供を受け入れてもらえる知識・技術です。
こうして高次脳機能障害の各症状・原因を知ることの重要性をお伝えすると、看護師さんから、「この症状には、どう対応したらよいですか?」と質問を頂きます。また、「症状別対応マニュアルを下さい」とコメント頂くことがあります。
how-toとmindの両立
確かに、ケア提供者としてhow-toを知ることには賛成です。
看護師は、一時的に結果の出やすいhow-toを学ぶ機会はたくさんあります。ただhow-toを効果的に生かすためには、その根幹となるmindが育まれている必要があります。
また、how-toだけでは対応できない症例はいくらでも存在します。もし困難と思える事態に直面しても、動じることなく関わっていける力を育むことが大切と考えます。
このサイトでは普段あまり着目されることのない、mindを育む方法をお伝えしています。この提案のひとつが、「神経心理ピラミッド」です。神経心理ピラミッドの詳細は別記事も参照ください。
【患者の問題行動に困っていませんか?】高次脳機能障害の患者さん・対象者さんを理解しようと努力しているのに、距離が縮まらない、ケアが上手くいかないという経験はないですか。高次脳機能障害を含む、認知機能低下を理解するために「神経心理ピラミッド」を紹介します。...
自分にはできる
神経心理ピラミッドを理解出来、看護師がmindを育めば、今まで以上に高次脳機能障害を理解することができます。
またいかなる症例に対峙しても、「自分には対応できる」と感じることができるようになります。これは専門職としての強みになるだけでなく、対象者さんに大きな安心を伝えることにも繋がります。
高次脳機能障害の症状・原因とともに「神経心理ピラミッド」、そして看護師(ケア提供者)のmindを育む方法に関心を寄せて下されば嬉しいです。