脳卒中は死亡しやすいだけでなく、後遺症を残す病気です。また、障害された脳の部位に応じた様々な症状を来します。
脳卒中症状は運動機能障害・認知機能障害など多彩ですが、急性期に生じやすいもののひとつに嚥下障害があります。
病院や施設で経口摂取を始める際、気を付けなければならないことが嚥下障害です。誤嚥性肺炎になれば対象者のQOLは低下し、ともすれば命に関わる事態にもなります。
「食べる」ことは生きることです。初めて会った対象者さんが食べ始めるとき、どうすればいいか、考えて行きましょう。
脳血管障害による嚥下障害
脳血管障害による嚥下障害を、まとめました。
脳血管障害による嚥下障害は大きく2つに分かれます。球麻痺とそれ以外です。今後、摂食・嚥下障害で混乱した時はこの表を思い出してください。
嚥下障害の種類
咽頭・喉頭の動き
正常な咽頭・喉頭の動きを示します。嚥下などに関わる咽頭・喉頭の運動、つまり喉の筋肉は脳の両側支配です。
咽頭・喉頭の運動は大脳前頭葉(イラストのグリーン部分)で司ります。反対側の喉へ刺激を出しています。
余談ですが四肢の運動は脳の片側支配である一方、咽頭・喉頭は両側支配です。どこか不思議に感じます。呼吸・嚥下など生命維持に関わる機能だから、人類進化の過程で両側になったのでしょうか。
一側性障害
咽頭・喉頭の運動は両側支配と言いました。このため、たとえ脳の片側が障害されても、もう反対側が残っているので嚥下障害は軽いのです。
仮性球麻痺
ところが、2回以上の脳卒中で両側の脳に障害があると、咽頭・喉頭の運動は両側とも機能が出来なくなります。このため、嚥下障害は重くなります。
この状態を仮性球麻痺といいます。脳神経領域で働いている方は、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
球麻痺
一方、球麻痺という病態があります。球麻痺とは、嚥下中枢障害のことをいいます。
大脳の咽頭・喉頭運動中枢(イラストのグリーン部分)が無事でも、脳幹にある嚥下中枢が障害された場合、球麻痺になります。
脳幹出血や延髄外側の脳梗塞などで起こります。嚥下の中枢が障害されるわけですから、1回の脳卒中でも嚥下障害は重度になりやすいです。
ワレンベルグ症候群などが有名です。
球麻痺と仮性球麻痺の違い
ここまでお話ししてきた、球麻痺と仮性球麻痺の違いをまとめます。
仮性球麻痺とは脳幹の嚥下中枢が障害されていないのに、まるで球麻痺のような症状を起こすため、こう呼びます。
摂食・嚥下障害の重要性
こうした嚥下障害ですが、脳卒中対象者に対応する場合避けては通れません。
脳卒中治療ガイドライン2021でもその重要性が述べられています。尚、嚥下障害では嚥下造影検査を推奨されています。
●飲食や経口摂取を開始する前には、嚥下機能を評価するよう勧められる。(推奨度A エビデンスレベル中)
●ベッドサイドでの簡便なスクリーニング検査としては水飲みテストが有料であり、精密な検査が必要な場合には嚥下造影検査や内視鏡検査が妥当である。(推奨度B エビデンスレベル低)
脳卒中治療ガイドライン20212-1 全身管理 (5)栄養など
嚥下造影検査、通称VFは左側です。嚥下の精密検査です。もう一つ右側、嚥下内視鏡検査、通称VEがあります。一長一短ありますが、どちらも嚥下障害の精密検査です。
この精密検査が、嚥下障害すべての事例に行われるのが理想なのかもしれません。しかし、それは極めて困難です。人も時間も必要ですし、被爆・侵襲など患者さんへの負担もあります。
以上の観点から、摂食・嚥下スクリーニングテストを行うのが妥当と考えられます。摂食・嚥下スクリーニングテストとはベッドサイドで行う、摂食・嚥下障害の簡易的なテストです。
これらのテストで問題ない場合、基本的には食事が可能と判断できます。誤嚥の有無を検知して、その後の精密な検査(VE・VF等)を行うかを鑑別することが主な目的です。
このスクリーニングテストで問題がある場合、より専門的な検査と治療・リハビリテーションに繋げることになります。
嚥下スクリーニングとは
- ベッドサイドで行う摂食・嚥下障害の簡易的なテスト
- これらのテストで問題ない場合、基本的には食事が可能と判断
- 誤嚥の有無を検知して、その後の精密な検査(VE・VF等)を行うかを鑑別することが目的
- スクリーニングがOKでも嚥下障害がないとは言えない
嚥下スクリーニングテスト
嚥下スクリーニングテストで代表的なものに、反復唾液飲みテスト(RSST)・改訂水飲みテスト(MWST)があります。この2つを紹介します。
反復唾液飲みテスト(RSST)
- 誤嚥のスクリーニングテストでは最も簡便
- 食物を使用しないため安全
- 指示が伝わらない対象者には不適応
反復唾液のみテスト(RSST)を、動画でみてみましょう。
改訂水飲みテスト(MWST)
- 嚥下時の喉頭隆起(のどぼとけ)の運動と、様子により咽頭期障害を評価する方法
- 誤嚥の危険性があるので、検査前には口腔ケアを行う
改訂水飲みテスト(MWST)も、実際の様子をみてみましょう。
まとめ
脳卒中による摂食・嚥下障害を考え、嚥下スクリーニングテストを紹介しました。
嚥下スクリーニングテストがOKでも嚥下障害がないとは言えないですが、ただ闇雲に摂食するのと「嚥下障害があるかもしれない」という視点で摂食するのとでは大きく違います。
- 脳卒中の嚥下障害では、球麻痺とそれ以外を分けて考える
- 球麻痺・仮性球麻痺では嚥下障害が重くなりやすい
- 経口摂取開始前には、嚥下スクリーニングテストをおこなう
本記事の情報が、脳神経ナースのお役に立てば嬉しいです。