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脳卒中の基礎知識

見逃さないで!脳神経ナース
【頭蓋内圧亢進症】

脳神経疾患患者に対応する看護師が、避けては通れない症候が頭蓋内圧亢進症です。特に急性期病院で働いている場合、その重要性を知る意味は大きいです。

脳卒中でなぜ人は死ぬのか、考えたことはありますか?脳卒中ということは脳の病気です。原則心臓も肺も無事なはずなのに、脳卒中が原因で確かに心臓や呼吸は止まります。あらためて考えるとすこし不思議な感じもします。(注:脳卒中に起因する重大な合併症を除いて考えます。)

脳卒中で人が死ぬ前には、原則頭蓋内圧亢進症が起こります。その経過でどうなっていくのか、そして私たちには何ができるのか考えていきましょう。

はじめに

私の趣味の一つ、バイク(オートバイ)です。バイクに乗る際は、ヘルメットを着用します。大切な頭部や脳を守るためには必須ですね。

人の頭蓋はこのヘルメットみたいなものなのです。外部からの攻撃には結構強いのですが、内部からの変化には意外に弱いのです。そして、半閉鎖空間なので内部で圧が上がっても逃げる場所が少ないです。脊椎が入っている大後頭孔しか出入口がありません。

ヘルメットで言えば、頭を入れる部分しか出入口がないのと同じです。頭蓋内圧亢進症を考えるにあたり、覚えておいてください。

頭蓋内圧亢進の影響

頭蓋内圧亢進症が良くないことであるのは間違いありません。ただ、実際脳にどんな悪影響があるのかを考える機会は少ないと思います。頭蓋内圧亢進症の影響をまとめます。

  • 脳灌流圧・脳血流量(CBF)の低下を来す
  • 脳灌流圧=平均動脈圧―頭蓋内圧

端的に言えば、脳内に血液が供給され難く・されなくなります。脳は通常、心拍出量の25%程度の血液を常に必要とする重要臓器です。少しでも脳灌流圧・脳血流量が低下すれば、短時間で細胞が壊死します。

頭蓋内圧亢進症の恐ろしさが伝わるでしょうか。

頭蓋内圧亢進症は難しい?

脳神経疾患を考えるうえで避けては通れない頭蓋内圧亢進症ですが、看護師さんからは「難しい。わかりにくい。」という声をよく耳にします。

よく話を聞いてみると、なぜ難しく感じるのか特徴があることに気づきました。私見ですがお示しします。自覚症状と他覚症状、急性症状と慢性症状を同時に語られている人が多いように感じます。

まずこれらを完全に分けて考えることで、頭を整理すると理解が進みます。「自覚症状・他覚症状」、「急性症状・慢性症状」を整理します。

慢性症状

頭蓋内圧亢進症の慢性症状には、様々な神経症状があります。中でも有名なものは、頭痛・嘔吐・うっ血乳頭です。頭蓋内圧の3徴候と呼ばれます。

頭痛・嘔吐は自覚的・他覚的症状ですが、うっ血乳頭は他覚的症状です。肉眼では確認できず、眼底鏡をもちいて観察します。

これら慢性症状は、頭蓋内病変がゆっくり大きくなる疾患で起こります。例えば脳腫瘍です。

急性症状

急性症状にも多彩な症状があります。頭痛・嘔吐・嘔気・意識障害・瞳孔症状・呼吸症状などです。

慢性症状と似ているものもありますが、症状の発現・進行が急激なことが特徴です。ひどい頭痛・嘔吐がおこり、意識障害・瞳孔症状を合併します。

なかでも最も重要な症状があります。クッシング現象です。

クッシング現象とは、以下の3つをいいます。

  • 徐脈
  • 脈圧増大
  • 緩徐深呼吸

徐脈は脈の数が減ることです、一般的には60回/分以下を指しますが個人差があります。異常な徐脈と理解してください。

脈圧増大とは、収縮期血圧と拡張期血圧の差が異常に広がることです。脈圧増大の起こった患者の脈をとると、血管が張って圧が高まっていることが確認できます。橈骨動脈か頸動脈が分かりやすいです。

緩徐深呼吸は、ゆっくりとした深い呼吸が続く様子を示します。こちらも普段とは違う、異常にゆっくりとした呼吸をイメージしてください。尚、各種テキストによっては緩徐深呼吸をクッシング現象にいれていないものもあります。

クッシング現象

頭蓋内圧亢進症の急性症状のうち、クッシング現象を取り上げました。急激に頭蓋内圧亢進症が進み、生じる症状です。

クッシング現象が生じているなら、先に示したように脳灌流圧と脳血流量が低下している可能性が高いです。看護師としてはとても嫌な症状ですね。

ただこのクッシング現象、脳灌流圧・脳血流量低下に打ち勝とうとする人体の代償機構でもあります。危険を教えてくれるうえ、脳を守ろうとする抵抗でもあるのです。

頭蓋内圧亢進症とクッシング現象のイメージ

頭蓋内圧亢進症・クッシング現象の起こり方をムービーで説明します。下が心臓、上部が頭蓋内を表しています。

頭蓋内病変を黄色で示します。大きな脳出血としましょう。頭蓋内圧が上がるわけですから、これまでの動脈圧では脳に血流が行きにくくなります。仕方ないから心臓ががんばってポンプ機能を高め、血流を無理やり送ります。この結果、1回の拍動でたくさんの血流を送ることになり、徐脈で脈圧が増大するわけです。その結果、クッシング現象が起こるのですね。

これを理解すると頭蓋内圧亢進時、安易に血圧だけを下げることの怖さが理解できます。

モンロー・ケリーの法則

モンローケリーの法則をお話しします。頭蓋内圧亢進症の考えかたです。

お伝えしてきたように、脳は硬い頭蓋骨で覆われているため半閉鎖腔です。その為、正常時頭蓋内圧はほぼ一定でバランスが取れています。図内の赤いラインが、頭蓋内圧100%(正常)です。

しかし何らかの原因でこのうちどれかの容積が増えると、他の容積が減少して代償します。この代償が効かないほど容積が増えた状態を頭蓋内圧亢進といいます。図内、赤いラインを越えているのがわかります。

一番上、脳出血・脳腫瘍だと脳組織の部分が増大しています。

二番目、水頭症は髄液の部分が増大します。

三番目、血液(血管内血液)が増大するのが低酸素です。低酸素とは、血液炭酸ガス濃度の増加です。二酸化炭素は血管の強力な拡張物質です。頭蓋内血管が膨らめば、血流が増大して頭蓋内圧亢進になります。

頭蓋内圧亢進には、これら大きく3種類があります。種類によって、治療が変わります。

脳ヘルニア

脳疾患でなぜ人は死ぬのか

色々な原因で頭蓋内圧亢進が進行し食い止めることが出来なければ、いずれ脳ヘルニアに伸展します。

さらに脳ヘルニアが極度になれば、脳幹を傷害します。脳幹、なかでも延髄には呼吸中枢・循環中枢があります。肺・心臓の機能を司る部分です。脳幹障害を来せば呼吸・循環障害がおこり、最終的に呼吸停止・心停止に至ります。生命危機です。

肺・心臓が直接障害されていなくても、脳疾患によって人が死ぬ理由がここにあります。

脳ヘルニアの概念

頭蓋内は2階建の家
2階 2部屋

1階 1部屋

脳ヘルニア

仕切り(壁・床)を乗り越えて、脳がはみ出る状態

脳ヘルニアの概念です。ごく簡単な解剖生理です。

頭蓋内を2階建ての家に例えます。1階が1部屋、2階が2部屋です。

屋根と外壁を水色ラインでしめします。頭蓋骨です。また仕切り(壁・床)を赤ラインで示します。この仕切りは硬膜です。仕切りはとても丈夫ですが、隙間があります。2階を2部屋に仕切る壁を大脳鎌、1階と2階を仕切る床(天井)を小脳テントと言います。

これらを乗り越えて脳がはみ出ることを、脳ヘルニアと言います。

脳ヘルニアのタイプと特徴

脳ヘルニアのタイプと特長です。脳ヘルニアとは本来の脳の位置が変異して、はみ出て、脳が押しつぶされることです。

いろんな種類があるのですが、基本的にはどれも生命にかかわる重大事案です。ただし、大脳鎌下(帯状回)ヘルニアは直接重篤な症状を来さないことがあります

頭蓋内圧亢進によるバイタルサインの変化

脳ヘルニアによるバイタルサインの変化を一覧にしています。意識・瞳孔・バイタルサインです。左が正常で右に行くにしたがって重症・死亡に近づきます。

ブレインナーシング春季増刊 2011 P71 より転載

ただしこれらは突然起こるのではなく、いずれも次第に変化していきます。つまり、脳ヘルニアのごく早期であれば回復が望めます。そうなる前、頭蓋内圧亢進の状態で発見・対処すれば生命および良い機能予後を期待できます。


まさに私たち看護師の手にかかっているのです。この大切な脳神経症状とバイタルサインの変化については別の記事で取り上げます。

頭蓋内圧亢進症 まとめ

重症脳疾患患者は、放置すれば頭蓋内圧亢進症から脳ヘルニアになります。そして残念ながら死亡します。このため、頭蓋内圧亢進症を早く発見したいのです。

ただ、過度に心配する必要はありません。頭蓋内圧亢進・脳ヘルニアを起こす経過で、脳神経疾患特有の症状があります。ですから、バイタルサインの変化と脳神経症状の観察が重要なんですね。

  • 頭蓋内圧亢進・脳ヘルニアを起こす経過で、脳神経疾患特有の症状を示す
  • バイタルサインの変化と脳神経症状の観察が重要

本記事が、脳神経ナースのお役に立てば嬉しいです。

ABOUT ME
小林 雄一
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師「看護師失格?」著者 看護師の育成に取り組むと同時に、看護師の対人関係能力向上に貢献するため、面談・セミナー・執筆活動を行っています。