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脳卒中の基礎知識

脳神経ナース必見!
【ちょっと特殊な?脳梗塞】

脳梗塞とは

脳卒中で最も多いのは、脳梗塞です。看護師にとって脳梗塞は身近な疾患です。もちろん一般の方にもよく知られた疾患であり「脳梗塞について説明してほしい」と患者・家族に言われたときには、自信をもって答えたいものです。

脳梗塞とは、脳の血管が狭くなったり詰まったりした結果、その先に血液が流れなくなるため、脳の細胞や組織が壊死してしまうことです。脳血栓と脳塞栓に分類されます。また発症原因により、アテローム血栓性脳梗塞・心原性脳塞栓症・ラクナ梗塞に分けられます。
ところが、これらに当てはまらない少し特殊な脳梗塞が存在します。

すこし特殊な脳梗塞

すこし特殊な脳梗塞を、順に説明していきます。BAD (Branch atheromatous disease)・一過性脳虚血発作(TIA)・トルソー症候群(Trousseau Syndrome)です。発症の機序、発症後の経過や対応が少し異なります。アテローム血栓性脳梗塞・心原性脳塞栓症・ラクナ梗塞とは分けて考えましょう。

BAD

BAD (Branch atheromatous disease)です。日本語では、分岐部粥腫型脳梗塞です。ラクナ梗塞に極めて似ていますが、混同してはいけません。BADのほうが悪化しやすいからです。BADはラクナ梗塞と同様、発症時は軽症であることが多いです。ところが、数日にわたって神経症状(特に片麻痺)が進行します。さらに、治療抵抗性となり早期から治療しているのにどんどん進行することがあります。


日本のBAD発症率は、諸外国より頻度が多いようです。リスク因子は、糖尿病・脂質異常症・肥満です。BADの画像診断基準をお示しします。

画像診断基準

  1. テント上である外側線条体動脈領域梗塞では、梗塞像が水平断で3スライス以上に及ぶもの
  2. テント下である傍正中橋動脈領域梗塞では、梗塞像が橋腹側に接しているもの
  3. 主幹動脈の高度狭窄(50%以上)または閉塞、明らかな心塞栓源を認めない
Branch Atheromatous Disease の病態と治療 BAD の臨床的診断と治療 脳卒中 31 巻 6 号(2009:11)


すこし難解なので、解説します。画像診断基準に、梗塞像が水平断で3スライスとあります。水平断で3スライスというのは、一般的な頭部CTが1枚5mm間隔のスライスで撮影されるからです。3スライスなら15mmですから、ラクナ梗塞ではないということになります。(ラクナ梗塞は、15mm以下の脳梗塞です)

一方、MRIのスライスは5mmではないことが多いので、確認時には注意が必要です。

発生機序

BADは、穿通枝が主幹動脈からの入口部で微小アテローム斑により狭窄、あるいは閉塞することによって生じます。ラクナ梗塞とアテローム血栓性脳梗塞の中間となる病態と言えます。外側線条体動脈、傍正中橋動脈に好発します。

ラクナ梗塞との違い

区別しにくいラクナ梗塞とBADの違いを説明します。左がラクナ梗塞、右がBADです。大きな動脈から出ている無数の穿通枝うちの1本、その先端が詰まるのがラクナ梗塞です。


一方、BADは穿通枝が根元から詰まっています。当然脳梗塞の範囲が大きくなるので、症状が重くなるのですね。

画像

BADのMRI画像(拡散強調像)です。急性期脳梗塞を見つける画像です。まず水平断という頭を輪切りにした画像です。3枚連続した写真です。白い部分が脳梗塞です。

MRI画像は、一般的にスライス間隔をCTより細かく設定します。2mmのスライス間隔で、高吸収域(白い部分)が3枚に写るとしましょう。すると「2mm×3枚=6mm」の直径がある脳梗塞ということです。ラクナ梗塞ですね。例えば9枚に写ったとしたら、「2mm×9枚=18mm」とラクナ梗塞ではないという判断になります。

そして次の画像、冠状断といいます。顔面を前からみた状態ですね。こちらも白い部分が脳梗塞です。細長い梗塞像がわかると思います。これらの画像を見れば、ラクナ梗塞ではないと判断できます。

一過性脳虚血発作 (TIA)

一回性脳虚血発作(TIA)とは、24時間以内に消失する脳または網膜の虚血による一過性の虚血症状をいいます。


虚血症状とは、一過性黒内障(一定期間目が見えなくなる・視力が低下する)や半身の脱力です。通常は1時間以内に症状が消失することが多いです。尚、TIA後は脳卒中の発症率が高まります。症状が改善したからと、放置してはいけないのです。

このため一度TIA発作を起こした場合は、脳梗塞に準じた治療を開始します。非心原性であれば抗血小板療法、心原性であれば抗凝固療法です。

TIA説明動画を見てみましょう。

日本脳卒中協会脳卒中啓発動画 H23より 転載

TIAは脳梗塞に移行しやすいと言いましたが、根拠があります。ABCD2スコア(ABCDスクエアスコア)という評価ツールがあります。左の表で年齢・血圧・神経症状・持続時間・糖尿病の有無で点数を加点し、右の表に当てはめます。ここで脳梗塞移行リスクが分かります。

一般的には、TIAを一度発症した人の約20%が脳梗塞になるとされます。

TIA 発生機序

TIAがなぜ起こるのか、いったん出現した症状がなぜ治療もせずに軽快するのか、少し不思議に思いませんか。

TIA発生機序のイメージをお示しします。

左が脳の主幹動脈(脳の太い血管)で、右が末消動脈(細い血管)です。


矢印の方向に血液が循環しています。主冠動脈に動脈硬化があり、血栓が形成されています。血流によって微小血栓が遊離します。そしてより末梢、細い部分へ飛んで行った微小血栓が閉塞します。しかし、線溶系の作用により血栓は自然に溶解し再開通します。結果、症状が軽快してしまうわけです。


治療をしなくても、人体は自然にある程度の血栓は溶かしてしまうのですね。だから、放置してはいけないのです。TIAは脳梗塞前の最終警告と言えます。

トルソー症候群

トルソー症候群(Trousseau Syndrome)とは、担がん患者に起こりやすい脳梗塞です。


がん細胞が分泌する物質が原因で心房内血栓が形成され、脳塞栓症を発症します。多血管支配域に多発する脳梗塞が特徴です。多血管支配領域とは、大脳両側(両側内頚動脈支配領域)や前方循環+後方循環(大脳と小脳・脳幹)を指します。

通常の脳卒中は、原則一つの血管支配領域に起きます。このため複数の血管支配領域に起こった脳梗塞は、トルソー症候群などを疑うのが自然です。

塞栓症ですので治療は抗凝固療法です。高血圧・糖尿病・心房細動のない方が脳梗塞を発症した場合、身体のどこかにがんが無いかを調べる余地があります。また、担がん患者の脳卒中はトルソー症候群を疑うのが妥当です。

画像

MRI(拡散強調像:DWI)画像です。急性期脳梗塞を見つける目的で撮影されます。明るい白の部分が脳梗塞です。左右大脳が同時に脳梗塞となっています。

まとめ

すこし特殊な脳梗塞

  1. BAD (Branch atheromatous disease)・一過性脳虚血発作(TIA)・トルソー症候群(Trousseau Syndrome)などがある
  2. アテローム血栓性脳梗塞・心原性脳塞栓症・ラクナ梗塞とは分けて考える


一般的な脳梗塞に加え、すこし特殊な脳梗塞を説明しました。これらを知れば、早期発見・早期治療に結び付きます。

治療が変われば看護も変わります。目の前の患者さん、「これは普通の脳梗塞かな?」と意識してみてください。自分にできることが見えてきます。

本サイトの情報が、より良いケアの手助けになれば嬉しいです。

ABOUT ME
小林 雄一
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師「看護師失格?」著者 看護師の育成に取り組むと同時に、看護師の対人関係能力向上に貢献するため、面談・セミナー・執筆活動を行っています。