脳卒中が原因で生じる症状はたくさんあります。その多様さゆえ、看護師さんからは「複雑でよくわからない」という声が聞かれます。
そこで、この記事では脳卒中症状をわかりやすく解説します。前回の記事では「麻痺」を取り上げ、脳卒中症状を理解するために必要な解剖整理を説明しました。
今回は、「麻痺」の評価方法を紹介します。
目の前の患者さんの症状の何を観察すればよいか、理解の手助けになれば嬉しいです。
ブルンストローム ステージ(Brunnstrom Stage)
片麻痺の評価にはブルンストロームステージ(Brunnstrom Stage)が良く使われます。これは中枢性麻痺の回復過程を表すスケールです。リハビリの効果判定や、地域連携パスをはじめとした施設間での情報共有にもよく使われています。
中枢性麻痺は各筋群が独立して運動することができません。このように各筋群が一緒に動いてしまう異常な運動を、共同運動と言います。
下に、ブルンストロームステージの概要を示します。Ⅰが弛緩性麻痺(完全な運動麻痺)で、Ⅵがほぼ正常です。ほぼ正常であって、正常でないことはポイントです。
Ⅰ~Ⅵの概要を説明します。Ⅰ:随意運動が見られない、Ⅱ:連合運動が出現する、Ⅲ:共同運動が出現する、Ⅳ:分離運動が一部出現する、Ⅴ:分離運動が十分可能となる、Ⅵ:運動の協調性、スピードが回復する、です。
- Ⅰ:随意運動が見られない
- 全く動きがない、最も重度の麻痺の状態です。弛緩性麻痺と言います。
- Ⅱ:連合運動が出現する
- 身体のある部分が,身体の他の部分の意志に従った意識的な運動(随意運動)に際して,意志によらず無意識におこる運動を言います。
- 患側で随意的運動ができない場合でも、健側に強い随意的筋活動を行わせるとその影響が患側肢に影響して患側肢の筋収縮を引き起こすなどの現象を指します。
- Ⅲ:共同運動が出現する
- 中枢性の病変の回復時に一過性に見られるパターン化された筋収縮を言います。 例えば、上肢を挙上しようとすると、肩甲骨挙上後退、肩関節外転・外旋もしくは内旋、肘関節屈曲、手関節と手指が屈曲するパターンをとりやすいことなどです。
- Ⅳ:分離運動が一部出現する
- 分離運動とは肩なら肩だけ、肘なら肘だけ動かすことのできることです。前述の共同運動に対比して、分離運動と呼びます。
- 共同運動が目立ちますが、身体の一部分では分離運動が出来始めた状態です。
- Ⅴ:分離運動が十分可能となる
- Ⅳに比べ、一層分離運動ができるようになった状態です。
- Ⅵ:運動の協調性、スピードが回復する
- 一見、発症前の状態にみえるくらい麻痺が改善した状態です。ただし、あくまで正常に近いだけであって、正常ではありません。片麻痺の回復過程の最も上位にあります。
以上がブルンストロームステージ評価の概要です。次に、評価の詳細を一覧で示します。
ブルンストロームステージは、上肢・下肢(体幹)・手指の3項目をそれぞれ評価します。表記するなら、上肢Ⅳ・下肢Ⅳ・手指Ⅳという具合です。
上肢・下肢・手指ともに、なにができればどのステージにあるかが詳細に示されています。患者・対象者の片麻痺を評価する際の参考にしてください。
【番外編】徒手筋力テスト
脳卒中領域で良く使用される麻痺の評価方法に、徒手筋力テスト(MMT:manual muscle test)があります。これは、各関節可動域を測定し麻痺の程度を評価するものです。
概要を示します。
とても平易でわかりやすく、麻痺を評価しやすいものに見えます。しかし、これは脳卒中の片麻痺の評価には使用できません。徒手筋力テストは末梢性麻痺に使用するものです。
脳卒中の麻痺の多くは片麻痺です。麻痺側全体の筋群の運動が低下しています。すると、各関節可動域を測定する徒手筋力テストは使用できません。「上肢MMT・下肢MMT」と言われることがありますが、そもそもこうした概念がありません。
徒手筋力テストで例えば肩関節を評価するとすれば、肩関節屈曲・伸展・外転・内転・外旋・内旋それぞれの徒手筋力テストを行わなければなりません。
ところが脳卒中による片麻痺は、肩関節のみならず身体半分の筋群の運動低下です。一つの関節の評価は不可能なのです。
詳しい背景はわかりませんが、日本の多くの急性期病院で脳卒中の麻痺評価に徒手筋力テストが使われてきたようです。現在も徒手筋力テストの使用が避けられない施設があるかもしれません。このようにどうしても使用しなければならないのであれば、徒手筋力テストとブルンストロームステージなどの併記が望ましいと考えます。
もちろん、所属施設で定められている麻痺の判定スケールを用いるのが原則です。なんでも構いませんが、多職種での共通言語となるスケールを使いましょう。NIHSSやJSSの麻痺項目、SIASなどで評価してもかまいません。
最も一般化され、多職種・多施設での共通言語になりやすいのは、ブルンストロームステージと思われます。
尚、麻痺の正しい評価方法は理学療法士・作業療法士に教えてもらうのが一番です。
麻痺の検出方法
ここまで脳卒中に伴う片麻痺の詳細な評価をみてきました。ここからは臨床、特に多くの病院・施設で麻痺を早期発見する方法を紹介していきます。
バレー徴候(Barre’ sign)
上肢バレー徴候
対象者に両腕の手のひらを上にして水平挙上して閉眼し、そのままの位置を保つように指示します。
すると、麻痺側上肢は回内して落下します。重度の麻痺であればストンと落下し、軽度の麻痺ならゆっくり落下します。ごく軽い麻痺なら腕は落下せず、掌を軽く握るような状態になります。(くぼみ手徴候)
回内しない落下は、中枢性麻痺ではない可能性があります。
下肢バレー徴候
対象者を腹臥位として、両膝を屈曲して下腿が45度程度上がった位置で保つよう指示します。
すると麻痺側下腿は落下します。重度の麻痺であればストンと落下し、軽度の麻痺ならゆっくり落下します。
ミンガチーニ徴候 (Mingazzini sign)
下肢の麻痺を判定する際、対象者の状態によっては腹臥位になりにくいケースもあります。そのような時には、ミンガチーニ徴候を用います。
背臥位で両側股関節と膝関節を90度屈曲して、下腿を空中に保つよう指示します。
すると麻痺側下腿は落下します。重度の麻痺であればストンと落下し、軽度の麻痺ならゆっくり落下します。
腕落下試験
まず、対象者の両側の上肢を垂直に持ち上げます。
続いて手を急に離すと、麻痺側上肢は抵抗なく急速に落下します。非麻痺側では顔面などを避け、麻痺側に比べてゆっくり落下します。
膝落下試験
対象者を仰臥位で膝関節・股関節を屈曲させ、膝を立たせる姿勢にします。
急に手を離すと、麻痺側下肢が外側に倒れるか、下肢が伸展します。麻痺側は、ストンと膝が落ちる様子が観察できます。
おわりに
脳卒中の症状と観察のポイントのうち、麻痺の評価方法をみてきました。
麻痺の観察のためには、正しい評価方法を身につけておくことが大切です。加えて普段から患者・対象者の動きをよく見ておくことが重要です。
麻痺悪化は脳障害の悪化を意味し、生命予後への影響が懸念されます。加えて、麻痺の悪化は患者のADLを低下させその後の生活に大きな影響を及ぼします。このため早期に発見し、早期治療に繋げたいです。
また、医療従事者は麻痺の悪化だけでなく改善も良く見て下さい。出来ることが広がるということは、ケアが変わるはずです。退院後の日常生活への影響を良く考えて行きたいですね。
本記事の情報が、脳神経ナースのお役に立てば嬉しいです。